ちなみに、こうした内規の「利食いになっていること」は、投資理論上無意味な基準だが、「顧客をもうけさせているならいいではないか」という証券会社の結果主義的な論理を反映していた。

 冒頭から昔話を長々と書いた理由は、回転売買をやりたい側と、中途半端な検査と指導を仕事としたい側の、半ば共犯関係に近い非生産的な関係が、令和の時代の新NISA(少額投資非課税制度)でも再現されそうだからだ。

回転売買を可能にする
新NISAの投資枠管理

 さて、「日本経済新聞」に「新NISA、回転売買の勧誘は処分対象 金融庁が監視強化」(電子版8月8日)という記事が載った。「回転売買」という言葉が、令和の時代にも生きているのだ。

 新NISAは、運用益非課税で投資できる年間投資額がつみたて投資枠で120万円(積立投資限定)、成長投資枠で240万円(一括投資可)の合計360万円ある。そして、投資家一人当たりの総額が1800万円(簿価ベース。成長投資枠は上限1200万円)と、金融機関から見てそこそこの営業ターゲットになり得る制度設計だ。

 しかも、この投資枠は、保有資産を売却した場合には再び投資可能な額として復活する仕組みになっている。購入は、年間360万円(つみたて投資枠120万円、成長投資枠240万円)の範囲で行う必要があるが、「商品を売らせて、買わせる」回転売買の勧誘がある程度可能な仕組みになっているのだ。

 これまでのNISAでは、いったん売却した非課税運用枠は復活しないことになっていたので、「売らせて、買わせる」を制度の枠内で行おうとすると、ごく小さな回転売買しかできなかった。それが、新NISAでは成長投資枠だけでも年間240万円までの回転売買が、枠の上限の1200万円に達していても可能なのだ。

 推測するに、日経の記者は、この点が悪用される懸念はないか、金融庁の担当者にただしたのだろう。記事の地の文にあるその問いへの答えは「短期の乗り換え勧誘の定義は明確にしていないが、行き過ぎた行為を見つければ是正を促し、悪質と判断すれば行政処分の対象とする」というものだ。

 昭和の時代の大蔵省と基本的に変わらない。金融行政に本質的な進歩はない。