妥協の産物
「成長投資枠」

 記者が実際に質問していたとしたら、その背景には、もともと2014年に創設されたNISAでの一部の金融機関での営業ぶりが予想を超えて劣悪で、これに立腹した金融庁が18年のつみたてNISAの新設に至った、といった過去の経緯の知識があったのだろう(注:「立腹」は筆者の推測だ)。

 回転売買を止めさせるためには、「商品を売ってから、3カ月は成長投資枠での購入ができない」といった回転を直接止めるルールを設けることが考えられる。ただ、これは個別株を自分で投資しようとする投資家にとって余計な制約になるし、投信の投資家でも必要なときに自分のお金が使いやすい「流動性」のメリットを損なう。デメリットの方が大きすぎてやるべきではない。

 スッキリした解決策は、ノーロード(販売手数料ゼロ)ではない投信をNISA全般の対象から除外することだが、対面営業の金融機関の収益とビジネスを考えたときに、そこまで踏み込むのは酷だと金融庁は判断したのだろう。

 販売手数料が2%、3%もある投信の販売は「ボッタクリ的だけれども、違法とするほどではない」と曖昧に線引きした。しかし、回転売買の勧誘で短期間に何度も手数料を取るのはまずいと指導する余地を残したということなのだろう。

 新NISAの「成長投資枠」は、個別株投資が個人の間でも活発に行われてほしいという建前の下に、金融機関に収益獲得の余地を残すために設けた、いわば妥協の産物だ。

 別の例を挙げると、金融庁は毎月分配型投信を「資産形成に適さない」(頻繁に分配金を出して複利の効果が損なわれるから)として対象から除外した。その一方で、投資としては実質的にほとんど変わりのない「隔月分配型」の投信は対象として認めることにした。

 隔月分配型は、公的年金の支給がない奇数月に分配金を出すと高齢者向けの営業がしやすいので、これを認めることの営業上の効果は大きい。せめて、運用の仕組みに無理があったり、運用管理費用(信託報酬率)が高すぎたりしない商品がセールスされることを願いたいが、これは大きな妥協だったと思う。もっとも、分配金には回転防止効果があるから、悪いことばかりではないのかもしれないが。

 販売手数料がゼロではない投信も成長投資枠の対象に含めることにしたのは、前述のように、新NISAは制度として金額がそこそこの規模なので、既存の金融機関はここで商売ができないとなると影響が大きいからだ。本質的に昭和の時代と変わらない彼らのリテール向けのビジネスモデルに一定の配慮をする必要があったのだろう。