米スプリント・ネクステルをめぐり、ソフトバンクの買収戦略に思わぬ伏兵が登場した
Photo:AFP=JIJI

 IT'S ALL COMING TOGETHER(これまでの集大成となる)──。

 米衛星放送会社ディッシュ・ネットワークのホームページ画面に広がったこの文字。横には米3位の携帯電話事業者スプリント・ネクステルのロゴが並ぶ。ディッシュが通信事業参入への仕上げとすべくスプリント買収提案をぶち上げたのだ。これを見たソフトバンク関係者は「またずいぶんと勝手だな」と吐き捨てた。

 ディッシュは今回、ソフトバンクの201億ドルを上回る255億ドル(約2兆5000億円)の買収金額を提示し、スプリントを横取りしようとしている。その内容は、ディッシュの持つ約1400万件の顧客基盤を生かし、映像配信や高速のブロードバンドサービスを通信端末とセットで提供しようというものである。

 だが、スプリントがディッシュの提案に飛び付くかといえば疑問符が付く。

 というのも、スプリントは次世代高速通信LTEサービスの通信網を拡大し、携帯事業により経営の立て直しを進めている。そのためにソフトバンクの買収提案を受け資金を得る。販売ノウハウの共有や資金調達力の向上、iPhoneなどの端末の共同購入にもつながるものだ。

 一方、ディッシュの提案は、放送サービスを軸にした展開で、情報通信総合研究所の岸田重行主任研究員は「スプリントが描いた将来像とは違うもの」と言う。放送事業よりも携帯事業の成長性が高いことは言うまでもなく、戦略の根幹をわざわざスプリントが変更するのは現実的でない。

 両社への信頼感にも差がある。ソフトバンクはスプリントの経営陣を残すことを明言し、幹部同士が日々交流を重ねてきた。ディッシュはスプリント傘下の会社に敵対的買収を仕掛け、今回も経営陣のすげ替えを画策しているもようである。

 実際、ソフトバンクにあわてた様子はない。今回の買収提案を受けても、「合意内容は、短期的かつ長期的にスプリントの株主に、より多くの利益を提供できる」とコメントし、金額の積み増しをしないと表明した。

 これは、買収完了によりスプリントが新会社に移行した後も上場を続けることから、既存の株主に将来的な利益を与えられるという自信の表れである。

 とはいえ、10%以上の大株主が2社しかなく、残りが浮動の株主であることから、懸念材料は残る。短期的な利益を取りに株主が動いた場合、ソフトバンクにもディッシュ並みかそれ以上の金額の負担が求められる可能性があるからだ。

 ディッシュの突如の参戦は、ソフトバンクの買収戦略にとって実に厄介な伏兵の登場となったのだ。

 (「週刊ダイヤモンド」編集部 小島健志)

週刊ダイヤモンド