2002年の規制緩和以降、供給過多の状態が続くタクシー・ハイヤー業界。帝国データバンクによると、2012年の倒産件数は2000年以降過去最多22件にのぼり、年間売上高を合計した売上高総額も4年連続で減少しているという。
そんな逆風吹き荒れる中、これまでの常識をくつがえす新サービスがこの6月にスタートし注目を浴びている。「ぶらタク」と呼ばれるこのサービスは、温泉旅館などと提携し自宅からタクシーで快適な旅行を格安で提供するというもの。箱根温泉プランでは、神奈川県全域から旅館までタクシーで送迎し、1泊2日2食付きのセットで驚きの安さを実現した。
例えば、川崎・溝口から1万7700円、横浜から1万6900円、相模原から1万6400円、藤沢から1万4800円(いずれも4人乗車で1人あたり価格)。これらの料金には、往復のタクシー料金と宿泊代+2食分が含まれているのだ。電車の乗り継ぎが困難な高齢者から、観光バスなどの団体行動が苦手な方、ドアtoドアで優雅に旅行を楽しみたい方など、幅広い層から問い合わせが集まっているという。
集合時間のあわただしさもなく、寄り道も自由
本サービスは、篠原俊正・ハートフルタクシー取締役副社長の呼びかけに、神奈川県内のタクシー会社17社が呼応したアライアンスだ。これまでの常識にとらわれず、タクシーの優れた特性を活かした新しいサービスを立ち上げた。
プロジェクトリーダーの篠原氏は語る。「タクシーの優れた特性は、好きな時に好きな人と好きな場所へ行けること。そのフレキシビリティこそ、プランがきっちり決まっている観光バスや電車との違いなんです」。確かに、タクシーなら道中気になるお土産屋さんを見つけたら寄れるし、決められた時間にわざわざ集合場所に行かなくてもすむ。
多くのタクシー会社とアライアンスを組むことで、神奈川全域でのサービスが可能となり、旅行会社と提携することで格安の宿泊プランが実現した。
乗車人数が増えれば1人あたりの料金が安くなるのがタクシーの魅力。「8人乗りのミニバンで親戚や仲間との旅行を企画すればもっと安くなります」と篠原氏。宿泊プランだけでなく、鎌倉のお寺や神社を巡る日帰りツアーも好評だという。「観光バスでは入れない小道もタクシーならスムーズに行けるし、地元の方しか知らないお店でランチなど、きめ細かい対応ができます」(篠原氏)。一歩踏み込んだマニアックな旅を演出できるのも「ぶらタク」の魅力といえるだろう。
そういう意味でも、旅の同伴者であるドライバーのホスピタリティと観光地に対する通な知識が重要になる。その点も考慮して「アライアンスを組む加盟会社で特選の穴場スポットを共有し、ドライバーの研修も通常より時間をかけて行う」(篠原氏)とか。タクシーの強みを生かして潜在ニーズを掘り起こした新サービスは、マーケットが縮小する時代を生き残る切り札となるかもしれない。
(加藤 力/5時から作家塾(R))