融資の利益減少に苦しむ多くの地方銀行を尻目に、徹底したリスク管理で顧客層を広げ、高収益をたたき出すスルガ銀行。地銀の再編機運が高まる中、独自路線を貫き事業拡大へ突き進んでいる。
東にライオン、西に象──。静岡県沼津市に本店を構え、東西を有力地方銀行に挟まれながら、全国で住宅ローンを積極販売するという「独自路線」を歩んでいるのが、スルガ銀行だ。
個人向けの融資業務に軸足を置き、周囲から「異端児」とやゆされながらも、地銀平均をはるかに上回る2%近い預貸金利ざや(貸出金利回り-預金利回り)をたたき出しており、収益力の高さは群を抜く(図(1))。
だが、そのスルガ銀も以前は、東を向けば最大手の横浜銀行が立ちはだかり、西を向けば大手の静岡銀行がにらみを利かせる身動きの取りにくい状況で、他行と代わり映えのしない中堅規模の地方銀行にすぎなかった。
静岡の一地銀が、個人業務に傾注し、収益を急速に伸ばす原動力になったのは、経営の先行きに対する強い危機感だ。
スルガ銀の経営には、危機感を抱く大きな転機が二つある。最初の転機は、バブル経済の足音が響き始めた、1985年にまでさかのぼる。
当時は、預金金利の一部自由化で、大口定期預金などが導入され資金の調達コストが徐々に上がる一方で、貸出金利は低下。多くの地銀で預貸金利ざやがマイナスになる「逆ざや」に悩まされていた。スルガ銀も同様で、85年3月期の純利益は前期比25%も減少する厳しい状態にあった。
収益力の回復に向けて、岡野光喜・現社長が、当時地銀業界で最年少となる40歳でトップに就任。個人向けのリテール業務へと大きくかじを切ったのだ。
海外視察で米国の地銀を見て回り、住宅ローンや消費者ローンなど個人向け業務で高収益を稼ぐ姿を目の当たりにしたことが、貸出残高の8割を占めていた企業偏重の融資構造を、大きく変える判断材料になった。