TPP交渉の年内合意断念の背景
米国への反発と地位低下が明確化

 12月10日、日米など12ヵ国が参加してシンガポールで行われていた、TPP(環太平洋戦略的経済連携協)交渉の閣僚会議が閉幕した。発表された声明では、「実質的な進展を得た」としたものの、関税や知的財産権などの交渉で各国が対立し、当初の目標であった年内合意を断念することになった。

 今回、TPP交渉で年内妥結を断念したことに関して、最も痛手を受けたのは米国、特にオバマ政権だろう。それでなくても、オバマ大統領は、シリア攻撃問題やFRB議長選任などで失点を重ねており、足もとの支持率が低下気味だ。

 そのオバマ大統領から見れば、TPP交渉の早期妥結は“点数稼ぎ”ができる重要な機会だった。来年秋の米国の中間選挙を睨むと、できるだけ早い段階で国民の目が向きやすいTPP交渉で、点数を稼いでおきたかったはずだ。ところが、TPP交渉でも信認回復が思うようにできなかったというのが本音だろう。

 今回の閣僚会議の展開を冷静に見ると、米国の交渉スタンスが始めからかなり強気だった印象を持つ。有体に言うならば、“ゴリ押し”の姿勢だ。そうした姿勢は、新薬の特許権の保護強化などに明確に現れていた。

 オバマ政権とすれば、TPP交渉で米国の国益を優先させることを国民にアピールする思惑もあったのだろう。

 一方、わが国をはじめアジア諸国の中には、米国の主張に真っ向から反対する姿勢があった。その背景には、APEC会議のオバマ大統領の突然の出席中止や中国の台頭など、様々な要素が絡んでいると見られる。

 ただ1つ確かなことは、アジア地域での米国の存在感がやや低下していることだろう。それは、わが国の安全保障や外交にとっても大きな影響が及ぶ。わが国としても冷静に考える必要がある。

 今回、TPP交渉の妥結を阻んだ主な対立点は3つある。1つは、関税撤廃の問題だ。わが国は、今まで聖域としてきた米、牛肉・豚肉、小麦、乳製品、砂糖の農産品5項目に関して、今まで通り関税撤廃に反対を主張した。