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嫌われる勇気──自己啓発の源流「アドラー」の教え
【第2回】 2013年12月27日
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古賀史健

第2回
他者の期待を満たすために
生きてはいけない

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他者との比較が劣等感を生む

 なぜ「すべての悩みは対人関係」なのか。そう問われた哲人は、自身がかつて思い悩んでいた、身長についての劣等感を語りはじめます。

哲人 では、わたし自身の劣等感についてお話ししましょう。あなたは最初にわたしと会ったとき、どのような印象を持ちましたか? 身体的な特徴という意味で。

青年 ええっと、まあ……。

哲人 遠慮することはありません、率直に。

青年 そうですね、想像していたよりも小柄な方だと思いました。

哲人 ありがとう。わたしの身長は155センチメートルです。アドラーもまた、これくらいの身長だったといいます。かつてわたしは——まさにあなたくらいの年齢まで——自分の身長について思い悩んでいました。

 身長が高いのか低いのか。一見するとこれは対人関係とは無縁の、内面的な悩みのように思えます。しかし、そうではないというのが哲人の、つまりアドラー心理学の考えです。哲人は友人から聞かされた「お前には人をくつろがせる才能がある」という言葉をきっかけに、そのことに気づきます。

哲人 わたしが自分の身長に感じていたのは、あくまでも他者との比較――つまりは対人関係――のなかで生まれた、主観的な「劣等感」だったのです。もしも比べるべき他者が存在しなければ、わたしは自分の身長が低いなどと思いもしなかったはずですから。あなたもいま、さまざまな劣等感を抱え、苦しめられているのでしょう。しかし、それは客観的な「劣等性」ではなく、主観的な「劣等感」であることを理解してください。身長のような問題でさえも、主観に還元されるのです。

青年 つまり、われわれを苦しめる劣等感は「客観的な事実」ではなく、「主観的な解釈」なのだと?

哲人 そのとおりです。わたしは友人の「お前には人をくつろがせる才能があるんだ」という言葉に、ひとつの気づきを得ました。自分の身長も「人をくつろがせる」とか「他者を威圧しない」という観点から見ると、それなりの長所になりうるのだ、と。
 もちろん、これは主観的な解釈です。もっといえば勝手な思い込みです。ところが、主観にはひとつだけいいところがあります。それは、自分の手で選択可能だということです。自分の身長について長所と見るのか、それとも短所と見るのか。いずれも主観に委ねられているからこそ、わたしはどちらを選ぶこともできます。

 われわれが抱える劣等感とは、他者との比較から生まれるものであり、「対人関係の悩み」である。そして、もしもこの世界に自分以外の誰ひとりも存在しなければ、あらゆる悩みはなくなってしまう。言葉も、論理も、コモンセンスも必要なくなる。「価値」そのものが存在しなくなる。逆にいえば、人間の悩みはすべてが対人関係に端を発することになる。それがアドラーの考えです。

 ちなみに、「劣等感」という言葉を現在語られているような文脈で使ったのは、アドラーが最初だとされています。

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古賀史健 (こが・ふみたけ)

 

ライター/編集者。1973年福岡生まれ。1998年出版社勤務を経てフリーに。これまでに80冊以上の書籍で構成・ライティングを担当し、数多くのベストセラーを手掛ける。20代の終わりに『アドラー心理学入門』(岸見一郎著)に大きな感銘を受け、10年越しで『嫌われる勇気』の企画を実現。

 


嫌われる勇気──自己啓発の源流「アドラー」の教え

フロイト、ユングと並ぶ心理学界の三大巨頭とされながら、日本では無名に近いアルフレッド・アドラー。彼はトラウマの存在を否定したうえで、「人間の悩みは、すべて対人関係の悩みである」と断言し、対人関係を改善する具体策を示してくれます。まさに村社会的空気のなかで対人関係に悩む日本人にこそ必要な思想と言えるでしょう。本連載では、アドラーの教えのポイントを逐次解説することでわかりやすく伝えます。

「嫌われる勇気──自己啓発の源流「アドラー」の教え」

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