ジョブスにとっての
“仮想敵”だったIBM
IBMとアップルがエンタープライズ用モバイルアプリケーションで提携するというニュースは、まず世間をアッと驚かせた。そして、何といってもアップルのジョブズ後の時代が本格化したことを感じさせるものだった。
もともとアップルが多くの人々に知られるようになったきっかけは、1984年の有名なスーパーボールのテレビ広告だ。世界を牛耳るビッグブラザーに対抗する新勢力として自らを位置づけたアップルは、その広告で暗にIBMを既成勢力として攻撃の対象にした。その少し前、スティーブ・ジョブズはIBMオフィスの看板前で中指を立てて写真に収められている。
それだけ、アップルはIBMのような整然としたエスタブリッシュメントに反抗精神を示すことを、自らのアイデンティティーとしてきたのだ。
そのアップルがIBMと組むとは…。
だが、ティム・クック時代のアップルにとって、IBMは決して敵ではない。アップルに移籍する前にコンパックに6ヵ月在籍したクックが、もっと長い経験を積んだのはIBMだ。その期間は12年。クックにとってIBMは馴染みのある古巣なのだ。
今回の提携では、「iOS(アップルのモバイル端末用OS)のためのモバイル優先(MobileFirst for iOS)」という事業が中心となる。これは、企業のIT部門がiPhoneやiPadのモバイルデバイスを管理しやすくする。
そして、それらデバイスでは、業界ごとに最適化したソリューションが搭載され、IBMのビッグデータ解析やワークフロー、クラウドストレージ、セキュリティーが提供されることになっている。
アップルは、顧客サポートの「アップルケア」を企業向けに提供し、IBMはオンサイトのサポートを担当。さらにIBMは、デバイス導入やアクティベーション、管理をパッケージ化したサービスも提供する。スタートは今年秋だ。