今回ご紹介するのは、ユーゴスラビア内戦の偏向報道をテーマにした『戦争報道 メディアの大罪――ユーゴ内戦でジャーナリストは何をしなかったのか』です。セルビア人を一方的に加害者として扱う報道が圧倒的に多いとのことですが、それはなぜなのでしょうか。

古くて新しいテーマ
「偏向報道・捏造報道」

捏造にまみれたユーゴ内戦報道を題材に<br />メディアの報道姿勢について語る衝撃作ピーター・ブロック著、田辺希久子訳『戦争報道 メディアの大罪』2009年3月刊。朝日新聞の報道姿勢が問われている今こそ読みたい一冊です。

 いわゆる従軍慰安婦問題における「吉田証言」や福島第一原子力発電所事故に関連した「吉田調書」などをめぐる「不適切な報道」をきっかけにして、朝日新聞への非難や批判が一気に高まりました。批判は朝日社内からも噴出しており、再生に向けた道筋はなかなか見えてきません。

 一連の朝日バッシングを見聞きしながら、筆者の脳裏によみがえってきたのは、本書『戦争報道 メディアの大罪』でした。原題“MEDIA CLEANSING:DIRTY REPORTING―Journalism and Tragedy in Yugoslavia(メディア・クレンジング――汚れた報道――ジャーナリズムとユーゴスラビアの悲劇)”や、副題「ユーゴ内戦でジャーナリストは何をしなかったのか」からおよその察しはつくでしょうが、本書はユーゴ内戦にあってのメディアの偏向報道やジャーナリストの報道姿勢について、彼らの犯した罪を改めて問い直した問題作です。

 著者のピーター・ブロックは、フィラデルフィア・インクワイヤラー紙などで活躍したベテランのジャーナリスト。「欧州の火薬庫」と呼ばれたバルカン半島を1970年代から取材し、90年代のユーゴ内戦に関する報道がいかに偏向していたかを内戦初期の段階から指摘していました。そして徹底した記事の洗い直し、関係者への執拗なまでのインタビュー、現地取材による事実の積み重ねなどによって誤報やでっちあげの事実を15年がかりで立証し、本書を書き上げたのです。