上司は厳格であるべきか、思いやりを前面に出すべきか。従業員の幸福に関する研究の多くが明白に示しているのは、思いやりの重要性だ。

 

 昔から問われ続けている命題がある。リーダーは、部下に好かれやすい親切な人間であるべきか。それとも、畏敬の念と粉骨の働きを引き出すために、厳格であるほうがいいのか。近年、職場におけるマインドフルネスや瞑想のような健康推進の取り組みが流行している。そして組織構造をより水平にしようという動きも目立っている。にもかかわらず、リーダーは厳格であるべきだという認識のほうが依然として圧倒的に多い。

 部下には毅然とした態度で接し、ある程度の距離を置くべし、という伝統的な考え方のほうが確かに無難に思えるかもしれない。部下は上司を尊敬するべきであり、ここを仕切っているのは誰かを忘れさせるほど親しくなってはいけない。組織には「やるかやられるか」「苦境に耐えて頑張る」「失敗したら後がない」という風土が少しはあったほうが、よい結果が出るとされてきたし、部下にハングリー精神と緊張感を持たせておける。部下のことをあまり気にかけすぎる上司では、「弱腰」と思われてしまうのではないか。それでは尊敬は得られないだろうし、部下もあまり懸命に働いてくれないのではないか――。

 近年の組織研究の進展によって、こうした疑問に対して意外な答えが出てきている。

「厳しい」マネジャーは、部下にプレッシャーをかければパフォーマンスが高まると考えていることが多い。それは間違っており、高まるのはパフォーマンスではなくストレスである。そして研究によれば、高度のストレスは雇用者と従業員の双方にさまざまな損失をもたらす。

 ストレスは、医療費と離職率の増加というコストにつながる。さまざまな企業の従業員を対象にしたある研究によれば、ストレス度が高い従業員を抱える組織の医療費支出は、ストレスが少ない類似組織と比べて46%も高かった(英語論文)。別の具体例として、職場でのストレスは冠状動脈性心臓病と関連していることが、後ろ向き研究(過去のパターンの分析)と前向き研究(研究開始以降のパターンの観察・予測)の両方で明らかになっている(英語論文)。そして離職率にも影響が出る。研究によれば、職場のストレスは転職活動、昇進の辞退、退職の原因になる(英語論文)。

 では、「親切」なマネジャーはどうだろうか。そのほうが部下たちはうまく仕事ができるのか。そして親切な上司のほうが出世するのだろうか。