「最善を尽くさなければやる意味がない」がメルセデスの哲学
「メルセデス・ベンツ」は、言わずと知れたドイツの高級車ブランドだ。10年以上前に、一度だけその乗り心地の良さを堪能したことがある。当時私が関わっていたインターネットサービスプロバイダの技術担当役員として、資金調達のための海外投資家巡りに参加した時のことだ。
サンマーク出版
245p 1500円(税別)
ドイツのフランクフルトで投資家向けにプレゼンをした後、翌日はオランダのアムステルダムにいる別の投資家を訪問する予定になっていた。その時に移動に使った車がメルセデス・ベンツだった。
生まれて初めてドイツのアウトバーンを時速200キロを超えるスピードで走ったのだが、それほどの高速走行をしているようにはとても思えない、安定した乗り心地に感心した。
資金調達のための投資家巡りという、経営上きわめて重要な仕事で使うのであれば、絶対に安全な車でなければならない。メルセデス・ベンツとはそんな時にこそ選ばれる車なのだと思う。
本書の「なぜ、メルセデス・ベンツは選ばれるのか?」というタイトルを初めて見た時、私は、いかにしてベンツが高性能かつ頑丈で、安定した走りを実現しているのかが書いてあると思った。技術的な観点も含めて解説されているのではないかと想像したのだ。しかし、内容は少し違っていた。
表紙に書かれた「The best or nothing」という英文のほうが本書の内容をよく表していると思う。この一文はメルセデスの創業者、ゴットリープ・ダイムラーの言葉だ。「最善を尽くさなければ意味がない」という意味であり、代々受け継がれてきた「メルセデスの哲学」でもある。その哲学を実践することこそが、メルセデス・ベンツがトップブランドとして、かつ日本という欧米とは少々様子が異なる市場でも選ばれる理由なのだろう。
本書の著者のメルセデス・ベンツ日本代表取締役社長の上野金太郎氏は、1987年に創業間もないメルセデス・ベンツ日本に新卒採用一期生として入社した。その後、営業、広報、ドイツ本社勤務を経験し、社長室室長、商用車部門取締役、常務取締役、副社長と、多岐に渡る業務や役職を経験し、2012年に日本人初の代表取締役社長兼CEOに就任した人物だ。
世界のトップブランドは、一般庶民には手の届かない遠い存在とイメージされてしまうことが多い。どうすればメルセデスが日本市場に、より親しみをもって受け入れられるのか。その答えを探すためにベストを尽くそう。答えが見つからなければ負ける。本書では、そんな危機感をもって仕事に臨んできた同氏が、これまでに遭遇したさまざまな困難をいかなる工夫で乗り越えてきたのか、具体的な経験談を交えて語っている。