外食市場がコンビニに侵食されている――そんな議論がある。吉野家ホールディングスの安部修仁会長はコンビニの強さは認めつつも、「外食チェーンが強みを発揮できる方法がある」と話す。(構成/フリージャーナリスト 室谷明津子)

味も値段も
進化するコンビニ食品

 最近、「コンビニエンスストアVS外食チェーン」という主旨の報道をしばしば見かけます。世間では「外食チェーンの市場がコンビニに侵食されている」と言われていますが、これは果たして本当でしょうか。

コンビニ全盛時代に外食が生き残る道セブン-イレブンの快進撃が続くなか、真っ向勝負を仕掛けても勝ち目はない。しかし、安部会長は、外食ならではの戦術があると考える

 確かに、種類が豊富で味も良いお弁当やパン、アツアツの状態で提供されるおでんやコーヒーなど、コンビニで売られる食品群はどんどん質が良くなり、価格も手ごろになって顧客のニーズをつかんでいます。

 しかもコンビニは、国内では飽和状態と言われながらも店舗数を増やし続けていて、いまや全国に5万3000店以上もの店舗を構えています(JFAコンビニエンスストア統計調査月報・2015年10月度)。

 このような流れの中、外食チェーン店で食事をしていた顧客が、何回かに1回をコンビニで代替するということは当然あり得ます。マクロで見れば、外食チェーンの売り上げに影響を与えているという見方は間違っていないでしょう。それでも私は、コンビニの進化が外食チェーンの決定的経営リスクになるとは全く思いません。顧客の購買行動の中身を丁寧に点検していけば、外食チェーンとコンビニがそれぞれ進むべき道が見えてきます。

 顧客にとっての「食品価値」は、おいしさと価格の組み合わせによって決まります。これは「V(value・価値)=Q(quality・質)/P(price・価格)」という式で表せます。同じ価格であれば品質が高いほど価値が上がり、品質が同じであれば、価格が安いかどうかで価値が決まる。

 一方、食べるという行為に付随する価値=「食事価値」は、食事をする時間や空間、一緒に食べる仲間などによって決まります。外食の場合は、従業員の態度や内装によって醸し出される店内の雰囲気、料理の提供の仕方なども影響するでしょう。

 吉野家の冬の人気メニューに、「牛すき鍋」など鍋メニューがあります。2013年に初めて発売したとき、目的の1つに顧客の「食事価値」を上げることがありました。鍋を加熱しながら食べるというのは、食事の時間を豊かにすることにつながります。

 これは店舗を構えているからこそできる「食事価値」向上のための施策で、持ち帰りが基本のコンビニとは戦略的にバッティングしにくい。鍋メニューは勢い食事として召し上がるのに時間がかかりますが、それでも「食事価値」を上げることのほうが大事だという判断で、発売を決めました。

 このように、これからの時代は外食チェーンが「食事価値」を充実させ、コンビニとの差別化を図っていくことも意識しなくてはいけません。