「幸せ食堂」繁盛記
【第十九回】 2016年1月19日 野地秩嘉

焼き魚が好きなら、必食!
高円寺で、秋田の家庭料理を堪能する

ボリューミーにして格安。これぞ庶民派食堂の鑑!

 高円寺の食堂兼居酒屋「福福」。秋田料理を標榜しているだけあって、きりたんぽ鍋(2000円)、ハタハタ寿し、いぶりがっこ、秋田しょっつるカマンベール(いずれも500円)などがメニューに載っている。

 店主の竹内真由美は「うちのは秋田そのままの味です」と、どんと胸を叩く。

「私は横手で生まれて秋田市内で育ちました。自分が食べた秋田料理を出しています。東京で秋田料理を食べたこともあるのですが、アレンジしたものばかりで……。たとえば、きりたんぽに白菜や豆腐は入りません。それなのに、東京の居酒屋では堂々と入っていることがある。きりたんぽは比内地鶏、根付きのセリ、ささがきごぼう、まいたけ、ねぎで作ります。他のものは入れません」

 寒い季節になると、福福では誰かがきりたんぽを食べている。あるいはすき焼き(要予約。3000円)だ。

 わたしはすき焼きを食べる人たちを横から見ていただけだけれど、1人前の肉の量は千万無量とも表現できる。計り知れないほど、牛肉の量は多かった。

 上記に加えて福福に来ると、誰もが必ず頼むのが焼き魚だ。

 昼の定食には小鉢3つ、味噌汁、おかわり自由のご飯が付く。それで850円。魚の種類は日によって違うけれど、文化さば、めだい西京漬け、鮭カマ、鮭の西京漬け、あこうだい粕漬、かます開き、ツボ鯛なとがある。文化さばとは、さばの文化干しのこと、文化干しとは天日干しではなく、乾燥機で乾かした干物だ。

 そして、定食に付く「小鉢」である。わたしは小鉢としたけれど、福福のそれは小さな鉢ではない。中鉢に野菜の酢の物、煮ものがたっぷり盛ってある。量が多い。

 夜はお得セット(1000円)だ。生ビールあるいは500円で出している日本酒(高千穂もしくは刈穂 秋田の酒)1合に、中鉢が3品つく。

 竹内さんによれば「税理士さんが原価が高すぎるというので、近々、1200円になります」とのこと。でも、1200円でも安い。

 つまり、この店の料理は「基本的にボリューミー」(竹内)で、安くて、家庭で食べるような気取りのない料理だ。

 気になるところといえばみそ汁などは多少、しょっぱい。しかし、それも含めて秋田の味なのだろう。

 なお、注文するならば覚悟を決めてから頼むべきなのは玉子焼き(600円)とおにぎり(1個250円)だ。

 おいしいけれど、ひとりで行った人はやめておいた方がいい。ボリューミーすぎるのである。

 玉子焼きは3種類ある。東京風のふわふわたまご焼き、長ねぎが入り、砂糖と醤油で甘辛い味にした秋田風、そして、だし巻。

 いずれも1人前で玉子を4個、使う。おなかいっぱいになってしまう。おにぎりはさらに巨大だ。コンビニのおにぎりだったら、3個分にはなる。おにぎりにはごまがふってあり、海苔で巻いてある。中高年だったら、1個で2食分だ。 

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野地秩嘉 1957年東京都生まれ。早稲田大学商学部卒業。出版社勤務、美術プロデューサーなど を経て、ノンフィクション作家に。食や美術、海外文化の評論、人物ルポルタージュ など幅広く執筆。近著に、「TOKYOオリンピック物語」「イベリコ豚を買いに」「打 ち合わせの天才」「アジア古寺巡礼」「アジアで働く いまはその時だ」など。


「幸せ食堂」繁盛記

この連載は、味がよく、サービスも悪くなく、値段はリーズナブルで、しかも、できればハイサワーやホッピーを置いている店のグルメガイドだ。ここで紹介される店は、金持ちの社長やグルメ評論家はまずいない。著者は、そういう店を「勤労食堂」「国民酒場」と呼ぶ。そこでは客が微笑しながら食べている。ほほえみながら食べている人と一緒にいることは至福だ。人生の幸せは勤労食堂もしくは国民酒場にある。

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