怪しいおじさんから資金提供オファー!?

これまで、この連載ではキャッシュフロー・アプローチという、ファイナンスの価値評価の核心について解説してきた。価値は、過去にかかったコストでも、現在の市場価格でもなく、未来のキャッシュフローに左右される。

しかし、ファイナンスが「将来に生み出されるお金」をもとに価値を捉えるということは、裏を返して言えば、「まだ手元にないお金」をもとに「現時点での価値」を考えているということだ。

ここで、ファイナンス理論にとって決定的に重要な考え方が、もう1つ登場することになる。それが「現在価値」である。

あなたが画家として個展を開いたところ、ある中年男性が興奮気味に話しかけてきた。

「なんとすばらしい絵なんだ! 1000万円払うからいますぐに譲ってほしい。でも、支払いを1年だけ待ってくれれば、1001万円に増やすよ」

このとき1年待つ人はまずいないだろう。1年後にはこの男性は約束を忘れてしまっているかもしれないし、あなたの絵を手にしてどこかへ逃げてしまっているかもしれない。死んでしまっている可能性も考えられる。

それに、プラス1万円がほしければ、さっさと1000万円を受け取って年利0.1%の定期預金にでも入ったほうが確実だ。