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ブラジャーで天下を取った男 ワコール創業者・塚本幸一

戦場でも500万を稼ぎだした
恐るべき商才

北 康利 [作家]
【第10回】 2016年6月15日
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捨てる神あれば拾う神あり

 幹部候補生試験での甲種合格を逃し、悄然としながら原隊復帰した幸一に、追い討ちをかけるような人事が発表された。

 小野中尉戦死のあと3ヵ月欠員となっていた第6中隊長として、伊藤中尉が任命されたのである。自分を乙種にした訓練隊長が上官として赴任するのだ。お先真っ暗という気持ちだった。

 しばらくして、彼は中隊長室に呼び出された。そして部屋に入るなり、伊藤からこう言われたのだ。

 「貴様は在学中に何かやらかしたのか?」

 その瞬間、頭のてっぺんに雷が落ちたような衝撃が走った。自分が乙種になったわけがすべてのみこめたのだ。例のラブレター事件である。

 事情を話すと伊藤は、

 「なんだ、そんなことか」

 と拍子抜けしたように言ってにやりと笑った。

 「試験の成績は優秀だったが、八幡商業の配属将校が“士官不適任”という申し送りをしていたため、乙種の1番としたんだ」

 それを聞いていまさらながら強い怒りがこみあげてきたが、伊藤はこう言ってくれた。

 「しかし悲観するな。わが中隊では貴様を甲種幹部候補生並みに扱ってやろう」

 幸一は感激し、少し大げさではあるが、この人のためなら死んでもいいとさえ思ったという。

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北 康利 [作家]

きた・やすとし/昭和35年12月24日愛知県名古屋市生まれ、東京大学法学部卒業後、富士銀行入行。資産証券化の専門家として富士証券投資戦略部長、みずほ証券財務開発部長等を歴任。平成20年6月末でみずほ証券退職。本格的に作家活動に入る。“100年経営の会”顧問。松下政経塾講師。著書に『白洲次郎 占領を背負った男』(第14回山本七平賞)、『福沢諭吉 国を支えて国を頼らず』、『吉田茂ポピュリズムに背を向けて』(以上、講談社)、『陰徳を積む 銀行王・安田善次郎伝』(新潮社)、『西郷隆盛命もいらず、名もいらず』(WAC)、『松下幸之助 経営の神様とよばれた男』(PHP研究所)などがある。最新刊は『佐治敬三と開高健最強のふたり』(講談社)。


ブラジャーで天下を取った男 ワコール創業者・塚本幸一

ブラジャー。この華やかな商品に一生を捧げた男がいた。戦後京都を代表するベンチャー企業「ワコール」を創業した塚本幸一である。インパール作戦の生き残りという壮絶な戦争体験を持つ彼は、いかにして女性用下着に出会い、その未開市場を開拓していったのか。ベンチャースピリット溢れるその豪快華麗な生涯を、いま最も注目される評伝作家・北康利が描きだす!

「ブラジャーで天下を取った男 ワコール創業者・塚本幸一」

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