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ニューロビジネス思考で炙り出せ!勝てない組織に根付く「黒い心理学」 渡部幹

日本社会の不安蔓延は「籍を置く」場所が失われたせいだ

渡部 幹 [モナッシュ大学マレーシア校 スクールオブビジネス ニューロビジネス分野 准教授]
【第52回】 2016年6月22日
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かつてないほど高まっている
日本人の「不安」の正体

 先日、久しぶりに日本に戻り、友人たちと旧交を温めることができた。その時に集まったのが、たまたま精神科医とビジネスコンサルタントだったのだが、話しているうちに、面白いことに気づいた。

 普段精神科の外来で働いている医者と、さまざまな職場の人事コンサルタントという、一見まったく接点のない職業についている者同士が、実は仕事のなかで同じ現象を経験していたからだ。

バブル崩壊後は「どこに籍を置いても安心を得られない」社会になった日本。将来への不安を抱えて、うつや対人不安など、さまざまな精神症状を発症する人が増えている

 それは世の中の多くの人が「将来の不安」を抱えていて、その不安の度合いはかつてないほど高くなっているという現象である。将来の不安は誰にでもあるが、いま特徴的なのは、全世代がそれぞれ特有な将来の不安を抱えていて、それがうつや対人不安などの精神障害につながっており、さらには会社組織の崩壊を導きかねない事態になっていることだ。

 振り返れば、かつての日本は世界でもまれにみる「安心社会」だった。犯罪者などにならない限り、学校を卒業したら正社員として就職し、基本的には定年までその会社で働き、その途中で結婚し、家族を持ち、お金があれば持ち家を買う。それが昭和時代の「キャリアパス」であり、本人がそこそこの努力をしている限りにおいては、そのキャリアパスから外れることはほとんどなかった。

 筆者はかつてそういった社会を「堤防型社会」と呼んだことがある。「籍」を持つことで安心を得る社会である。少なくとも、戦後から現在にいたるまで多くの日本人が求めているのは、「良い大学に入って安心」「良い会社に入って安心」「良い人と結婚して安心」など、「あるところに籍を置けば、とりあえずその後は安心できる」という人生である。籍を置くことは、堤防の内側に入ることを意味する。その後は堤防の外のことを考えずに、安心して人生を送ることができるというわけだ。

 この価値観は、日本の社会制度と日本人の心性に大きな影響を及ぼしてきたのではないだろうか。日本人が人生において最も努力し、最も真剣に決断するのが、この「籍」を得るための行動だからだ。

 高校や大学の入試、就職活動、結婚、子どもの学校選びなどなど、何かの「籍」を得るためには多大な才能と努力が必要とされる。そして「籍」を得て、堤防の内側に入った後は安心していられる。

 逆に「籍」を得られない人は、「負け組」のレッテルを貼られる。この見方からすると、いわゆる「Fラン大学」(ランクの低い大学)の学生や「浪人」は、良い大学の「籍」を得られなかった人々だ。また、いわゆる「派遣さん」と呼ばれる非正規雇用社員は、正規雇用という「籍」を得られない人々だ。婚活を続けていても良い伴侶を得られない人は、文字通り「籍」を入れられない人である。

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渡部 幹(わたべ・もとき)
[モナッシュ大学マレーシア校 スクールオブビジネス ニューロビジネス分野 准教授]

UCLA社会学研究科Ph.Dコース修了。北海道大学助手、京都大学助教、早稲田大学准教授を経て、現職。実験ゲームや進化シミュレーションを用いて制度・文化の生成と変容を社会心理学・大脳生理学分野の視点から研究しており、それらの研究を活かして企業組織にも様々な問題提起を行なう。現在はニューロビジネスという大脳生理学と経営学の融合プロジェクトのディレクターを務めている。代表的な著書に『不機嫌な職場 なぜ社員同士で協力できないのか』(共著、講談社刊)。その他『ソフトローの基礎理論』(有斐閣刊)、『入門・政経経済学方法論』、『フリーライダー あなたの隣のただのり社員』 (共著、講談社)など多数。


ニューロビジネス思考で炙り出せ!勝てない組織に根付く「黒い心理学」 渡部幹

この連載の趣旨は、ビジネスマンのあなたが陥っている「ブラック」な状況から抜け出すための「心」を獲得するために、必要な知識と考え方を紹介することにある。社員を疲弊させる企業が台頭する日本社会では、「勝てない組織」が増えていく。実はその背景には、マクロ面から見た場合の制度的な理由がある一方、日本人の持つ国民性や心理もまた、重要な要因として存在する。そうした深いリサーチが、これまで企業社会の中でなされてきただろうか。本連載では、毎回世間で流行っているモノ、コト、現象、ニュースなどを題材として取り上げ、筆者が研究する「ニューロビジネス」的な思考をベースに、主に心理学や脳科学の視点から、その課題を論じていく。あなたは組織の「黒い心理学」を、解き明かすことができるか。

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