ダイヤモンド社のビジネス情報サイト
山田英夫のビジネスモデル・ラボ

エプソンが大容量インクタンク搭載プリンタで
「ジレットモデル」に投じた一石

山田英夫 [早稲田大学ビジネススクール教授]
【第3回】 2016年7月20日
著者・コラム紹介バックナンバー
1
nextpage

消耗品ビジネスから転換した
エプソンの「逆ジレットモデル」

エプソンの大容量インクタンク搭載プリンタ「EW-M660FT」。これまでの製品と比べたメリットは?

 ヒゲ剃りのジレットが、柄は安く提供して替刃で儲けるところから、そのビジネスモデルは通称「ジレットモデル」(消耗品モデル)と呼ばれている。我々が自宅で年賀状を印刷するときに痛感するように、インクジェットプリンタもジレットモデルの典型例と思われてきた。

 しかし、そのプリンタの世界に「逆ジレットモデル」が誕生した。それもアウトサイダーではなく、世界のプリンタ3強の中の1社であるセイコーエプソン株式会社(以下エプソン)が始めたのである。

 エプソンは早くから、東南アジアでインクジェットプリンタを販売していたが、インドネシアでは苦戦していた。それは、現地業者が勝手に外付けタンクを作り、それにインクを注入して売っていたからであった。流通業者もプリンタ購入後、ユーザーがインクカートリッジを買いに来てくれないため、儲からない状況になっていた。

 インドネシアでは、業務用で多数印刷する会社も、日本の家庭用にあたるプリンタで印刷している例が少なくなかった。他社製プリンタも同じ被害に遭っていたが、それを阻止することは難しいと思われた。

 そこでエプソンがとったのは、「そのようなプリンタが人気があるなら、自らそうしたプリンタを発売しよう」という決定であった。現地業者のタンクやインクは、インク漏れがあったり、それが原因で本体を壊したりすることもあった。しかし、エプソンが純正でそうしたプリンタを作れば、信頼性は高い。しかも同社は、1年間の保証をつけた。

 「本体は安くして、消耗品で稼ぐ」という従来のビジネスモデルを変えることは同社にとって英断であったが、「利益が出ないなら、ビジネスモデル自体を変えよう」ということで意思決定が下された。

1
nextpage
関連記事
スペシャル・インフォメーションPR
クチコミ・コメント

DOL PREMIUM

PR
【デジタル変革の現場】

企業のデジタル変革
最先端レポート

先進企業が取り組むデジタル・トランスフォーメーションと、それを支えるITとは。

経営戦略最新記事» トップページを見る

最新ビジネスニュース

Reuters

注目のトピックスPR

話題の記事

山田英夫 [早稲田大学ビジネススクール教授]

慶應義塾大学大学院経営管理研究科修了(MBA)後、三菱総合研究所にて新事業開発のコンサルティングに従事。1989年早大に移籍。学術博士(早大)。専門は競争戦略、ビジネスモデル。アステラス製薬、NEC、ふくおかフィナンシャルグループ、サントリーホールディングスの社外監査役を歴任。主著に『経営戦略 第3版』(共著、有斐閣、2016)、『競争しない競争戦略』(日本経済新聞出版社、2015)、『異業種に学ぶビジネスモデル』(日経ビジネス人文庫、2014)、『逆転の競争戦略:第4版』(生産性出版、2014)、『ビジネスマンの基礎知識としてのMBA入門』(共著、日経BP社、2012)などがある。


山田英夫のビジネスモデル・ラボ

企業を取り巻くビジネス環境が激変するなか、これまで自社の主流となってきたビジネスモデルを、根本から見直そうと考える経営者は増えている。しかし、単なる新製品・新事業開発に比べて、ビジネスモデルの再構築は、極めて難しいのが現実である。一方で、業界になかったビジネスモデルを構築し、着実に利益を稼ぎ、堅実な成長を遂げている企業も少なくない。なかには、表面的には競合他社と変わらないようなビジネスモデルを持っている企業もある。この連載では、様々な業界でビジネスモデルを巧みに構築している企業にスポットをあて、顧客や競合から見えている部分だけでなく、見えない部分にも目を配り、ビジネスモデルの「真の強み」を考察する。「どこに注意してビジネスモデルを構築したら良いかわからない」と悩む経営者諸氏には、ぜひ参考にしてほしい。

「山田英夫のビジネスモデル・ラボ」

⇒バックナンバー一覧