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英EU離脱に潜在する近代西洋文明の退化リスク

嶋矢志郎 [ジャーナリスト]
2016年8月5日
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EU離脱を許した英国のエリート層が政治リスクを徒に増幅させた「3つの罪」とは?

 英国のEU離脱が国民投票で決まってからおよそ1ヵ月。世界を駆け巡った衝撃波は次第に落ち着きを取り戻しつつあるが、国際社会に投げかけた波紋は深刻で、その影響は重大である。政治リスクが連鎖して、取り返しのつかない禍根を後世に残すことになりかねない。

 連合王国の英国自身が解体の危機に直面し、EUを分裂か結束かの岐路に追い込み、国際秩序にも亀裂を走らせて、世界経済の成長と発展の原動力となってきたグローバル化に大きな試練を突きつけている。

 複雑な争点を「離脱か残留か」の二者択一で決する国民投票に委ねたことは、無責任と言える。杜撰な議会制民主政治の劣化が排他的なナショナリズム(民族主義)やポピュリズム(大衆迎合主義)を加速して、寛容と多元主義の下で近代資本主義とそのグローバル化を推進してきた近代西洋文明の進化にも逆行する危機を迎えている。

焦点は新政権とEUとの関係
離脱派が担う難題な離脱交渉

 英国では、早くもEU離脱へ向けて舵を切る新政権が発足。これからは英国とEUとの離脱交渉の行方が焦点となるが、テリーザ・メイ新首相が急転直下、新首相に就任した手際の良さもさることながら、そのメイ新首相がいち早く組閣に着手、人選したEUとの離脱交渉に臨む顔ぶれにも驚きを禁じ得ず、注目を集めている。

 当初の予定では、新首相の選出は9月上旬まではかかると見られていたが、保守党の党首選で対抗馬であったアンドレア・レッドソム・エネルギー担当閣外相が突如撤退を表明したため、約2ヵ月も早い就任となった。

 メイ首相は早速、EU離脱へ向けた行政組織の再編と組閣に臨み、目玉となる「EU離脱担当省」と「国際貿易省」を新設、既存の外務省との関係三省で離脱交渉に臨む態勢を整えた。その上で、EU離脱担当相には長年の対EU強硬派で知られるデービッド・デービス元欧州担当相を、国際貿易相には同じく離脱派のリアム・フォックス議員を起用、外相にはEU離脱派の旗振り役であったボリス・ジョンソン前ロンドン市長を指名して、EU離脱を断固推進する基本姿勢を国内外に示した。

 ジョンソン外相は、メイ首相のライバルとして次期首相の有力候補とされていたが、党首選には出馬を辞退。メイ首相が閣内に取り込んだものの、初入閣でもありその手腕は未知数で、力量が問われている。

 ただ、メイ首相の組閣人事はキャメロン色を排した上で、閣僚22人中離脱派を7人登用して、難題な離脱交渉を離脱派に担わせる一方、主要ポストを子飼いの残留派で占める手堅い布陣との評価である。

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嶋矢志郎 [ジャーナリスト]

ジャーナリスト/学者/著述業。東京都出身。早稲田大学政経学部卒業。日本経済新聞社(記者職)入社。論説委員兼論説副主幹を最後に、1994(平成6)年から大学教授に転じ、芝浦工業大学大学院工学マネジメント研究科教授などを歴任。この間に、学校法人桐朋学園理事兼評議員をはじめ、テレビのニュースキャスターやラジオのパーソナリティなどでも活躍。専門は、地球社会論、現代文明論、環境共生論、経営戦略論など。著書・論文多数。


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