経理部門の仕事と聞くと、あなたはどのようなイメージを浮かべるだろうか。社内の業績数字を集め、集計し、グラフや表を作ってレポートにまとめ、CEOにそれを渡す“経理屋”か、それとも経営者や事業部門責任者と数字を基に丁々発止やりあう切れ者か――。本来あるべき姿は、当然、後者だ。グローバルカンパニーでは、それが当たり前となっている。一方の日本企業は、依然として前者であることがほとんど。たとえ上場企業であっても、だ。

CFOをはじめとしたファイナンス部門の本来の仕事は何か、そして旧態依然とした日本企業の経理部門はどう変わるべきなのか。グローバル市場へ勝負に出なくてはならない日本企業にとって、経理部門の変化も、待ったなしの課題である。この答えを、日本に拠点を持つグローバル企業のCFOのインタビューから、明らかにしていくというのが本連載の主題である。

第1回は創業200年を超えるグローバルカンパニー、デュポンの日本法人のCFOを勤める橋本勝則・取締役兼常務執行役員に話を伺った。聞き手はデロイト トーマツ コンサルティングで、CFOプログラムを通して数多くのCFOと仕事をしてきた日置圭介・シニアマネジャーだ。(編集・構成/ジャーナリスト 田原寛)

経理・財務の本来の役割は
定型業務にあらず

はしもと・かつのり
1978年慶應義塾大学商学部卒業、YKK入社。YKK英国社のCFOなどを経て、90年4月デュポン株式会社入社。米国デュポン出向などを経て、2001年デュポン株式会社財務部長、02年取締役、09年11月より取締役兼常務執行役員。99年デラウェア大学経営学修士号(MBA)取得。
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日置氏 多くの日本企業がグローバル化を急いでいますが、財務パフォーマンスを比較する限り、グローバルエクセレントカンパニーとは開きがあり、その進捗は遅いと言われています。

 例えば、日本企業の多くはグローバルレベルでどのような事業をどの地域・国のマーケットに展開するか、あるいは撤退するかという判断が苦手です。子会社ひとつを売却するのも社内の反対があったりして非常に苦労することもあり、スピード感をもって実行できずにいます。選択と集中を進めるには、まずどの事業を捨てるべきかを判断しなくてはなりませんが、デュポンではその判断に大きな影響を与える指標があるのですか。

ひおき・けいすけ
トーマツグループCFOプログラム、デロイト トーマツ コンサルティング・シニアマネジャー。日本CFO協会主任研究員。早稲田大学大学院会計研究科非常勤講師。
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橋本氏 デュポンではSVA(株主付加価値)という指標を使っています。簡単に言ってしまえば、資本コストに対する超過収益です。

 株主から資本として調達した資金と、銀行借り入れや社債など市場から調達した資金のコストを加重平均したのが資本コスト。そして、SVAの場合、収益はNOPAT(税引後営業利益)です。

 資本コストを上回る収益を上げられないようでは経営者として株主に説明がつきませんので、そういった事業を続けるのは難しい。