売春島や歌舞伎町のように「見て見ぬふり」をされる現実に踏み込む、社会学者・開沼博。そして、大阪・飛田新地の元遊郭経営者であり、現在もスカウトマンとして活躍する杉坂圭介。『漂白される社会』(ダイヤモンド社)の刊行を記念して、「漂白」されつつある飛田の現在・未来をひも解く異色対談。
第2回は、店舗型風俗の取り締まりが強化されるなかで新規経営者が増加する飛田の現状、スカウトマンの実態、そして、価格競争によるデフレ化が進む飛田のこれからが語られる。対談は全4回。
冷やかし客が増えた一番の理由
開沼 本の中でも書かれていることをもう一度聞かせてください。飛田には「裏に暴力団がいる」あるいは「警察と癒着している」というパブリック・イメージは根強いと思います。しかし、具体的に調べても、その明確な根拠は必ずしもありません。その実態について杉坂さんはどうお考えですか?
杉坂 おそらく癒着はないと思います。ただ、親交を図るためにも、組合の役員の方が毎日のように警察に行っておられます。ヤクザについては、裏の裏で、経営者がまったくのプライベートで会われているかどうかはわかりません。ただ、基本的にはありません。
もしヤクザが店なんかに出入りしたら、「廃業、除名するぞ」と言って、警察が取り締まらなくても組合があっという間に取り締まります。昔は、お店の用心棒さんが店の前まで来てのトラブルはあったみたいですけど、いまは街の中でヤクザが店に出入りすることはないですね。
開沼 なるほど。飛田にやって来るお客さんの質の変化はありますか?前回のお話にもあった通り、ネットで調べればだいたいの雰囲気はわかるようになって、これまでよりも気楽に行ける場所になっている側面など。
杉坂 冷やかし客はたしかに増えましたね。あんなに色っぽい女の子を4周も5周もただ見るだけで、ヌかずに帰ることが逆に不思議だなと思います。僕には考えられません(笑)。
開沼 冷やかし客が増えた理由は、具体的になぜだと思いますか?
杉坂 結局、お金がないのが一番でしょうね。それと、飛田は風俗の中では高いですから。当たっているかはわかりませんが、うちの女の子をさんざん見て、60分3000円のヘルスに行くとか、あるかもしれないですよね。
開沼 飛田の価格帯は変わっていないにしても、周囲がデフレ化した結果、相対的に「高価だ」ということになってしまった、と。その一方で、2000年代に入ってから街の風景がだいぶ変わったようですね。
杉坂 街並みはきれいになりましたね。これも賛否両論なんですけど、街は明るくなりました。ただ、僕らの街が明るくていいのかなとも思いますし、暗い道で店の看板だけが明るいほうがいいのかなという気もします。
開沼 街が変化する一方で、同業者の方の顔ぶれの変化についてはどう感じていますか?高齢化しているとか、世代交代があったとか。
杉坂 だいぶ若返りましたね。
開沼 そうですか。
杉坂 20代~30代前半の女の子が経営している店が結構多いですよ。あるお店の女の子が独立するわけです。本当に自分でやってんのかなと思いますけどね。その子が自分で金を貯めて独立したのか、働いていたお店の親方(経営者)が金を出して独立させているのか、そこはわかりません。
でもこういう世界は、おっさん経営者より、20代の女の子のほうが女の子を集めやすいかもしれないですね。50歳を過ぎている経営者で、女の子を自分で探せる方はほとんどいません。噂ですが、30代のホスト系の経営者が、上の世代の経営者に女の子を回してるというのは聞いたことがあります。生き残るための“年貢”じゃないですけど、女の子を預けることで自分の存続を守ろうとしてるんじゃないですかね。
開沼 古い街並みのイメージがあるからかもしれないですが、外から見ていると、飛田といえば昔からずっと「飛田の住民」として生きてきた人が経営しているようにも想像してました。ただ、そうでもないんですね。
杉坂 昔の時代の方は、自分で女の子を探すのは無理だと思いますよ。いま、飛田7割くらいは人頼みじゃないですか。