「来年の就職は結構厳しいから、覚悟しておいてほしい」
ある私立大学の担当者は、現3年生を対象にした就職セミナーでこうクギを刺している。
「日本経済新聞」の調査では、主要企業による今春の新卒採用計画(来年4月入社)は、前年比8.1%増。依然として売り手市場であることに変わりはないが、「一部の大手企業は春先から採用数を絞り始めている」(就職情報会社の営業担当者)のだ。
たとえば、過去数年間における大量採用の象徴だったメガバンク(みずほフィナンシャルグループ、三菱東京UFJ銀行、三井住友銀行)。2007年4月入社の新卒採用は3行合計でじつに7000人近かったが、来年4月入社組については6000人あまりで、明らかに減速している。ほかにも、東京海上日動火災保険(1000人強→750人)、野村證券(834人→700人)など、すでに採用計画人数を減らしている有名企業は少なくない。
ここ数年、景気回復を見込んだ事業拡大や団塊世代の退職ラッシュを受けて、多くの大企業が内定を乱発し、新卒学生の量的確保に走ってきた。だが、今春の採用方針は「無理して数合わせをしない」であり、入社の意思を厳しく確認するようになっている。結果として内定が出にくくなっているというわけだ。
最終的には、相変わらず人手不足が深刻な中堅・中小企業へと流れていくので就職率が大きく下がる心配はないが、「超売り手市場」と言われた昨年、一昨年に比べて変調を来しているのは間違いない。
この変調の直接の引き金になっているのは、サブプライムショックによる株価低迷に加えて、円高と原油高が進み、景気の先行きが不透明になりつつあることだ。しかし、長期的に見れば、リストラなどで新卒採用を絞ってきた大企業が、いびつな年齢構成を修復するために実施してきた採用攻勢が一段落したともいえる。
景気に多少左右されることはあるにしても、大量採用の基調がずっと続くとは考えにくい。空前の売り手市場は、どうやら今春でひと区切りつきそうな雲行きなのである。
(『週刊ダイヤモンド』 千野信浩)