
金利のある世界が到来し、激戦の舞台へと再浮上したリテール市場。ソフトバンクや楽天グループなど、他社との協業を強みとするのがみずほフィナンシャルグループだ。木原正裕社長は他メガに後れを取る現状を認めつつも、第一勧業銀行・富士銀行時代から受け継ぐ“リテールのDNA”を復活させ、「もう一度旗を立てる」と逆襲を誓う。特集『銀行・証券・信託 リテール営業の新序列』の#9で巻き返しへの目算を木原社長に聞いた。(聞き手/ダイヤモンド編集部 永吉泰貴)
構造改革で後手に回ったリテール
眠れるDNAをもう一度呼び覚ます
――2022年の社長就任後、「マスリテール」を注力テーマの一つに位置付けました。その判断に至った背景は。
19年度からの5カ年経営計画では、ビジネス・財務・経営基盤の構造改革を柱に、収益基盤の多様化とコスト構造の最適化を進めました。背景には、当時の資本基盤が他のメガバンクや外銀(外資系投資銀行)に比べ脆弱だったという課題があります。
構造改革を優先した結果、十分な投資ができず、さらにマイナス金利環境も重なってリテールへの投資は後回しになってしまいました。
しかし過去を振り返れば、みずほの前身である第一勧業銀行と富士銀行は、リテール分野でトップを争った都市銀行です。「リテールのDNA」は組織に残っているはずで、この力をもう一度発揮したいという思いがありました。これが第一の理由です。
第二の理由は、日本経済の将来を見据えた判断です。経済が成長すれば投資需要は増え、借り入れを伴う案件も多くなります。その貸し出しの基盤となる預金を安定的に確保することは、企業の成長資金を供給する上で不可欠です。
この二つの理由から、社長就任後、23年度からの3カ年経営計画の策定段階で「マスリテールに本格的に取り組もう」という方針を打ち出しました。
――リテールではSMBC(三井住友銀行)が先陣を切りました。
SMBCさんはあっぱれですよ。低金利環境でも果敢にリテールへ投資されたことは、本当に見事だと思います。
――リテールのDNAは、どのような形でみずほの組織に残っていますか。
私は1989年に入行しましたが、同世代の行員は今も多く在籍しています。現カンパニー長の磯貝和俊もその一人です。統合前の銀行を知る人材がいるうちに、かつてのリテール力を取り戻すことは十分可能だと考えています。
また、もう一つの源流である日本興業銀行は富裕層ビジネスに強みを持っていました。「みずほ=ホールセール」という印象が強いかもしれませんが、リテールのDNAも確かに刻まれています。
要は、ここでもう1回、リテールで旗を立てようということです。
――しかし他の2メガに比べてみずほのリテールは遅れている。現在の自社の立ち位置を、木原社長はどう捉えていますか。
Olive(オリーブ)で先行するSMBCをたたえつつ、「われわれは挑戦者であり、追い掛ける立場だ」と語る木原社長。一方で、みずほには「リテールのDNA」があり、改革に着実な手応えを得ているとも強調する。次ページでは、2年以上進めてきたリテール改革の全貌と勝算について木原社長が明らかにする。