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森達也 リアル共同幻想論

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何かが変だ。その"さん"づけに違和感がある

 新聞を読みながらふと思う。何かが変だ。テレビのニュースを見ながら思う。やっぱり何かが変だ。

 その変な何かについて、すぐわかるときもあれば、なかなかわからない場合もある。でもこのときは、何かが変だと気づいてから、何が変なのかに気づくまでに、あまり時間はかからなかった。

 ……いきなり何を書いているのか、我ながらよくわからない。悪文のうえにもったいぶっている。だから単刀直入に書こう。最近、何か変だと思ったのは、足利事件再審についての報道だ。

 ただし、その変だと思った「何か」については、最後に記すつもりでいる。今回はその前に、再審という制度について、思うところを書いてみたい。

 確定した判決についての審理を再び行なうことを再審と呼ぶ。つまり裁判のやり直し。これを求める再審請求は刑事訴訟法に定められた手続きで、「被告人の利益」になる場合に限って認められている。

 具体的な事例としては、判決の決め手となった証拠が(検察側などによって)偽造されていることが明らかになる可能性がある場合とか、証言や鑑定が虚偽であることが証明された場合、あるいは、かつての判決で認定した罪より軽い罪を認める明らかな証拠を新たに発見した場合などに、被告人(弁護側)は再審を請求できるが、これを認めるかどうかは裁判所の判断だ。

 近代司法国家なら再審制度は必ず備えられている。なぜなら人間は間違える動物だから。でも日本ではもうずっと前から、再審は「開かずの扉」などと言われていた。あるいは「ラクダが針の穴を通るより難しい」とか。

 ……どう考えても難しいなどのレベルじゃない。ラクダは針の穴を通れない。通せるものなら通してみろと言いたくなる。つまり、この国で再審が認められることはほぼ不可能であると、これらの格言は言っている。

 100%不可能とは言わないけれど、確かに日本の裁判所は、再審請求をめったに認めない。今回の足利事件も含めて、冤罪はとても多くあるのに。

なぜ裁判所は再審請求を認めないのか

 例外的な時期はあった。1980年代だ。免田事件に財田川事件、そして松山事件に島田事件と、再審によって4人の死刑囚の無罪が証明され、彼らは死の淵から生還した。

 でもその後、死刑判決が確定した裁判をやり直したという事例はない。ぷっつりと途絶えた。足利事件以外には、再審が始まったばかりの布川事件(1967年に茨城県で起きた強盗殺人事件)や、再審で無罪が認められた貝塚ビニールハウス事件(1979年に大阪で発生した強姦殺人・死体遺棄事件)など、まったくないわけではないけれど、いずれも死刑事犯ではない。死刑が確定してからの再審は、確かにとても難しい。

 なぜ80年代以降、裁判所は確定死刑囚の再審の訴えに耳を貸さなくなったのか。想像だけど、4件の冤罪が立て続けに明らかになったことで、組織防衛の論理が優先されるようになった可能性は高い。

 なぜならもし再審を認めていなければ、無辜なる市民が何人も処刑されていた。ミスや勘違いのレベルで済む話ではない。当然ながら担当した裁判官や検察官たちは批判されただろうし、裁判所や法務省も責任問題で激しく揺れたはずだ。となれば組織の論理としては、なぜ再審を認めてしまったのだ……、となったとしても不思議はない。もう認めないほうがよいとの暗黙の了解が形成されてしまった可能性は、決して否定できないと思う。

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著者プロフィール

森達也
(テレビディレクター、映画監督、作家)

1956年生まれ。テレビディレクター、映画監督、作家。ドキュメンタリー 映画『A』『A2』で大きな評価を受ける。著書に『東京番外地』など多数。

この連載について

テレビディレクター、映画監督、作家として活躍中の森達也氏による社会派コラム。社会問題から時事テーマまで、独自の視点で鋭く斬る!

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