社会から離脱し、地域で孤立する人たちに、どのようにアプローチしていけばいいのか。本当は社会に出たいと思っているのに、心や体のメカニズムの問題から出られなくなってしまった「引きこもり」などの人たちに向け、国は11年度から、専門チームによるアウトリーチを行ったり、全国各地に相談窓口を整備したりする取り組みに、本腰を入れ始めた。

 先週末、これからの「引きこもり」支援の方向性について、厚労省の施策担当者の話を聞く機会があったので、紹介したい。

厚労省の「引きこもり」推計数調査を阻む
地方自治体の理解不足

 正確にいえば、東京都豊島区で開かれている『KHJ東東京「楽の会」』という全国組織の「引きこもり」家族会・東東京支部の例会で、厚労省の精神・障害保健課の発達障害対策専門官の方の講演を聞かせて頂いた。

 担当者は、発達障害の成人の人たちの相談が増えている中でのニーズに応えるのに加え、「引きこもり」担当も任されているという。日本で「引きこもり」についての調査や研究がなかなか進められず、取り組みや施策が立ち遅れてきたのも、根拠になる「引きこもり」の法律がないからなのであろう。

 それに関連して興味深かったのは、厚労省の研究班が昨年春、新ガイドラインとともに公表した、「引きこもり」のいる家庭は全国「26万世帯以上」という推計数についての話だ。

 ご存知のように、内閣府はその後、「引きこもり」の人の推計が約70万人、親和群(潜在群)を含めると約225万人と発表した。

 それに対して厚労省の推計数は、「こころの健康」という幅広い調査の1つで、02年度から05年度にかけて、無作為抽出で選ばれた20歳~49歳の対象者の家庭を調査員が訪問。家族に「引きこもり」の状態を説明して、その場で有無を尋ねたものだ。

 厚労省は、このデータ自体が古いため、もう一度調査を実施しようとして努力したが、「引きこもり」だけの調査をしようと思うと、協力してくれる自治体がほとんどなかったのだという。

 そういえば以前、ある東海地方の自治体を取材したら、「うちの市では、引きこもりは0人です」と、担当者に真顔で答えられたのを思い出した。