橘玲の日々刻々 2019年4月25日

「しーじゃとうっとぅ」は沖縄のヤンキーの絶対の掟であり、桎梏
【橘玲の日々刻々】

沖縄では男女間のDVが頻発している

 しーじゃとうっとぅは沖縄のヤンキーにとって、一種の「安全保障」であると同時に桎梏でもあった。

 だがもうひとつ、ここには沖縄の「暗部」がある。それは先輩―後輩間の暴力が女性との関係にも持ち込まれ、DV(ドメスティックバイオレンス)が常態化していることだ。

 打越氏が家族と別居していたとき、中里という若者に電話すると、「打越もこれで、うちなーんちゅ(沖縄の人)、なれるさ」と励ましてくれた。離婚率の高い沖縄ならではの励ましだった。中里と仲のいい太一と慶太も一緒にいて、「おまえの気持ちはわかるよ、がんばろうな」と言葉をかけてくれた。中里と太一には離婚経験があって、妻子と離れて住むキツさを何とか乗り越えたと、自らの経験を話して打越氏を励ました。

 「彼らはおもしろくて、人間味のある若者だった」と書いたうえで、打越氏はこう続ける。

「その一方で中里は、当時の妻が稼いだ生活費を奪い、スロットに注ぎ込んでいた。電話で励ましてくれた太一は、妻へのDVが原因で離婚し、中里のアパートに居候していた。慶太も、つき合っていた彼女に暴行をはたらき、罰金刑を受けた過去があった。おもしろく、やさしい彼らは、女性たちから生活資金を奪い、暴力をふるってもいた」

 沖縄の宿痾ともいえるDVについては、打越氏の共同研究者でもある社会学者・上間陽子氏の『裸足で逃げる 沖縄の夜の街の少女たち』(太田出版)でも繰り返し描かれている。

 ここでは打越氏と上間氏が共同でインタビューしたサキという女性の話を紹介しよう。

 サキは4人きょうだいの末っ子として沖縄県北部で生まれ育った。父親は自営業、母親はスーパーでパートをしていた。

 サキが中学のときにつき合った男は4歳年上の18歳だったが、窃盗で捕まって少年院に送られた。高校2年のときにつき合っていた別の男とのあいだに子どもができ、入籍した。出産後、しばらくしてキャバクラで働きはじめ、第二子を妊娠したときは高校を1年間休学して出産・育児に専念し、4年かけて卒業した。

 打越氏が2007年に出会ったとき、サキは妊娠7カ月(第二子)の女子高生だった。その頃のサキは、毎晩のようにゴーパチに来て暴走族見物をしていた。

 2014年の聞き取りで、妊娠中にゴーパチに通っていたのは、夫からの激しいDVがあったからだとサキははじめて打ち明けた。以下は、上間氏とサキの会話だ。

上間 殴る系?
サキ 殴ったりー、階段から落とされたりー。
上間 え―――っ。
サキ いちょ[一応]ひどい。結構。馬乗りもされたし、首も絞められたし。だから一応、トラウマはある。だから今の旦那とケンカしても、トラウマはある。この人、大丈夫かなぁ、殴ってこないかなぁ、みたいな。
上間 んんん。
サキ 結構ひどかったではある、あの人は。
上間 どんなやって逃げたの? 逃げたっていうのか。
サキ いや、自分、一緒に住んでるときは、普通に、相手が酒飲んでて、ケンカ(に)なって殴り始めるんですよ。ケンカ(に)なったら絶対、酒飲んで(る)から。だから、ひどいときは警察呼んだりとか。
(略)
サキ だからー、自分最初はー、子どももいるし、やっぱ(彼と暮らす家に)帰ろうっていうアレ(気持ち)があるんすよ。(DVを)やられてもー、ちょっとしたら帰る気になるんですよ。要は依存? 依存があるんですよ、多分、男のほうに。だから、依存して帰ってきたりはしてたんだけど、何かが吹っ切れてー。
上間 なんでだろうね。
サキ なんでだろうねぇ。
上間 もういいって思ったときってのは、赤ちゃん連れてって殴られたとき?
サキ そうーっすねー。それが大きいかも、一番は。なんでか内容は忘れたけど、なんかでケンカしてー、マジ馬乗りされて、隣に赤ちゃんが寝てるのに、こんなされたらマジ嫌やっさーと思って、そっこー逃げたんすよ。でもう、これ離婚の原因っすね。子どもの前でやるくらいなら、自分一人で育てたほうがいいと思ってー。

 サキはその後、かねて交流のあった暴走族の後輩とつき合いはじめ、2009年には子どもと4人で暮らすようになった。警察に勾留されたことをきっかけに彼は暴走族を引退し、鳶として働くことをサキに誓った。2013年には入籍し、彼とのあいだに子どもをもうけた。旅行好きな両親の影響で、最近はよく家族で旅行に出かけるという。

 打越氏が調査を始めて10年たった2017年、ゴーパチで知り合った10代の若者たちはサラ金の回収業、金融屋の経営、スロットの台打ち、性風俗店の経営、ボーイ、型枠解体業、鳶、塗装、左官、彫師、バイク屋、ホスト、キャバクラ嬢、弁当屋、主婦になっていた。なかには「シャブ中(覚せい剤中毒)」で消息不明になったり、内地の刑務所に収監された若者もいた。

 ここで紹介したのは『ヤンキーと地元』のごく一部だが、「地元=共同体」に密着した若者たちの生活は大半が過酷だった。10年にわたってそんな「見えざるひとびと」を追い、彼らの人生を浮き彫りにした打越氏の研究から、これまで知らなかった(知ろうとしなかった)世界がこの日本にあることがわかるだろう。
 

 

橘 玲(たちばな あきら)

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 作家。2002年、金融小説『マネーロンダリング』(幻冬舎文庫)でデビュー。『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』(幻冬舎)が30万部の大ヒット。著書に『「言ってはいけない 残酷すぎる真実』(新潮新書)、『国家破産はこわくない』(講談社+α文庫)、『幸福の「資本」論 -あなたの未来を決める「3つの資本」と「8つの人生パターン」』(ダイヤモンド社刊)『橘玲の中国私論』の改訂文庫本『言ってはいけない中国の真実』(新潮文庫)、『もっと言ってはいけない』(新潮新書) など。最新刊は『働き方2.0vs4.0』(PHP研究所)。

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橘 玲(Tachibana Akira) 作家。1959年生まれ。早稲田大学卒業。「海外投資を楽しむ会」創設メンバーのひとり。著書に『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』『(日本人)』(幻冬舎)、『臆病者のための株入門』『亜玖夢博士の経済入門』(文藝春秋)、『黄金の扉を開ける賢者の海外投資術』(ダイヤモンド社)など。
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