永遠に変えることがないコアバリューを
徹底的に浸透させて、行動にまで落とし込む
松江英夫(まつえ・ひでお)/ デロイト トーマツ コンサルティング パートナー Strategy&Operationsリーダー。中央大学ビジネススクール大学院戦略研究科客員教授(「実践・変革マネジメント論」)、事業構想大学院大学客員教授。「経営変革」に関わる戦略・組織領域のテーマ(成長戦略、M&A、イノベーション、グローバル組織再編)などを多数展開。主な著書に『ポストM&A成功戦略』、共著に『クロスボーダーM&A成功戦略』(いずれもダイヤモンド社)など。本連載を基にした書籍『自己変革の経営戦略 - 成長を持続させる3つの連鎖』をダイヤモンド社より7月17日発売予定。
松江 興味深いのは、時代とともに変化しながらも変わらないものがあるというお話しです。特に、コアバリューへのこだわりが際立っていると思います。
田中 そこは他社の話を聞いていて、私も独特だと思うようになりました。入社して33年ほどで、他社のことはよく知らなかったのですが、外から入ってきた人に「独特ですね」と言われます。4つのコアバリュー「安全と衛生」「環境スチュワードシップ」「社員の尊重」それから「最高の倫理基準に沿った行動」については、変革(トランスフォーメーション)をいくらやっても永遠に変えません。これに賛同する人が私達の社員としてずっといてくれる人でしょうし、それを前提に働いてくれない限りは会社は社員として認められないくらいのことを考えています。
松江 その徹底度合いが並外れです。一般的に、コアバリューという言葉が多くの会社で使われていますが、どのぐらい時間をかけてエネルギーを費やせば、御社のように行動から変えていけるのでしょうか。
田中 長年かかりますね。たとえば、転職して入られたある方が、最初は、「えっ」と思って、そのうち仕方がないなあと思って、そのうちやりだして、まあ、これぐらいだったらできると思うようになるまでに7年かかりました、と言っていました。
私は、今でも覚えていますが、30年以上前の入社当時、1つのルールにシートベルトがあって、運転席でも、助手席でも、後ろでも、シートベルトを絶対するというものだったのです。日本で法律化される前でしたが、1年もしないうちにシートベルトをしないと気持ち悪くなりました。
タクシーと言えば、先日4人でタクシーに乗る機会があったんですが、後ろの真ん中に座った人間がシートベルトを着けようとしたら、ベルトがないのです。これではダメだ、ということで、4人が2台に2人ずつにして行ったことがありました。それは私が「分かれよう」と言ったわけじゃないのです。そのシートベルトがなかった人が、「じゃあ、もう一台に分かれます」と自分から言ったんですね。それを聞いたときは、いいレベルまで浸透しているなと思いました。
松江 新しく入ってきた方など、まだあまり知らないといった方に対する浸透のさせ方など工夫されていることはありますか?
田中 コアバリューミーティングを事務部門ではだいたい3ヵ月に1回ぐらい、工場では毎月やっています。たとえば、テーマで「交通安全」の月があると、シートベルトの話や、運転の際にこういうことに気をつけましょうといったことを話して徹底しています。
驚かれるかもしれませんが、今、私どものほとんどのミーティングの最初に、長くても5分ぐらいですが、「コアバリューコンタクト」というコアバリューのことを誰かが何か話すという時間があります。ミーティングの主催者が「コアバリューコンタクトが誰かあるか」と出席者に聞くんですね。すると出席者が「最近すごく危ない思いをした。怖い思いをした。こういうときには、こうしたらいいんじゃないかと思う」といった話をして、みんなに広めるんです。それが、今、私どもで会議をするときの一つの習わしです。
松江 それは、もともと、グローバル本社で行っていたものなのですか。
田中 最初はグローバル本社で行っていたものですが、各国でもやるようになりました。国によっては違う形だったりしますので、それぞれの国が各国からやっていることからBest Practiceを吸い上げることもしています。
松江 その上でも本当に徹底していくのは難しいと思うのですが、どういう方法が一番効果的とお考えですか?
田中 一つでOKということはないと思います。ただ何が一番効くかというと、「フェルトリーダーシップ」だと思います。リーダー、マネージャー、あるいは管理職が自ら言うし、自分で手本を見せるし、やってない人間には注意をするしという、そういうコアバリューの違反を許さないという強い意志と行動が見えないと、なかなか、皆さんは真剣にならない。真剣にやっているという態度が見えないと、なかなか難しいと思います。



