遺産と相続はどうなるのか?
突然死の場合、故人の銀行口座の残高を遺族は手にすることができるのか。没収される可能性は。遺書はどこでどう書くのか。日本にいる親族に動産・不動産の名義変更はできるのか。……。タイ人妻は遺族年金を受け取れることができるだろうか。日本人も遺言を残せるのか。
まずは、資産の名義変更や銀行の口座解約について。
●遺言がある場合、遺言がすべてに優先
タイの遺産相続には基本的にタイの裁判所の介入がある。その際、もっとも優先されるものが「遺言」だ。タイ人、外国人にかかわらず、故人がタイで持っていた動産・不動産の名義変更、銀行の口座解約から残高譲渡まですべてに遺言内容が優先され、それに従って裁判所から命令が出る。
●日本人の遺言はタイで作れない
死亡した日本人(被相続人)の遺言は、あくまで国籍のある日本の民法に従って作成されたものでなければならない(日本の遺言の作成方法や決まりはここでは割愛)。このため、これらの日本語公文書ほか裁判所で要求される日本語の書類には英訳文の作成と翻訳証明の提出が求められる(通常、大使館に翻訳証明を発行してもらう)
●銀行口座の解約
タイに身内がおらず、日本から遺族がやってきて銀行口座の名義変更や解約する場合でも、タイの法律に従う限り、タイの裁判所の命令がないと銀行は口座の解約に応じることができない(ただしこれは大原則であって、銀行の支店によっては、遺言状を提示すれば、裁判所の命令状がなくても対応してくれる場合もある)。
某地元商業銀行では、必要書類として裁判所命令のほかにタイ国死亡登録証明書、親族関係を証明する戸籍記載事項証明(※1)、タイの外務省から大使館の担当官が間違いなく同館の職員であるという証明、さらにすべての書類に大使館による承認があること、などが定められていた。
書類が揃えば30日後、死亡した該当日本人の口座のお金を引き出すことができる。
動産・不動産については案件によって様々に違うため、割愛させていただく。
●遺言がない場合、タイの民法が適用
遺言がない場合は必ずタイの裁判所の介入がある。日本人がその名義でタイに持っていた動産・不動産の名義変更、銀行の口座解約から残高譲渡まで、タイの民法により遺産は法定相続人として死亡した該当日本人の直系の親族(被相続人の父母と子息)と妻に等配分されるのが基本。
子息が成人前であれば母親が代理となる。直系の父母子息が存在しない場合、兄弟、兄弟の子息と血縁の近いものから分配される。この場合も、タイの裁判所から日本語で書かれた戸籍記載事項証明(※1)等の公文書ほか必要書類の英文訳の証明(通常、大使館による証明)の提出が求められ、裁判所が出した命令に従うことになる。
※1:戸籍記載証明書についての詳細は、領事部旅券証明班で問い合わせに応じてくれる。
●タイ人の妻が遺族年金を受け取るには
日本人妻が日本の遺族年金を受け取る場合、本籍地のある(または住民票のある)場所の年金事務所や大使館に問い合わせれば、容易に手続きを済ませることができる。
しかし配偶者がタイ人の場合、日本の年金事務所が必要とする、タイの証明書がもともとタイに存在しない等の状況が発生する。しかもその状況の解決方法は各地方の年金事務所によっても対応や解釈が違う。
次のページ>> 遺族年金の受給手続きは?
|
|