マニュアルを「ロボット化、画一化するもの」とマイナスのイメージで捉える人もいるだろう。だが、良品計画前会長の松井忠三氏は、生き生きと働きながら成果を出すことができる「最強のツール」だと説明する。なぜなら、無印良品の躍進を支えているのが、まさに「マニュアル」だからだ。なぜマニュアルが大切なのか、成果を出せるマニュアルとはどんなものなのか。

松井忠三(ただみつ)氏
松井オフィス代表取締役社長
良品計画前会長

 2019年4月に「MUJIHOTEL GINZA」や「MUJI Diner」を開業するなど、新たな取り組みが話題を集める良品計画。同社の躍進を支えているのは、無印良品店舗の業務マニュアル「MUJIGRAM(ムジグラム)」と、本社業務をマニュアル化した「業務基準書」だ。前者は全13冊で2000ページ、後者は6600ページに及ぶ。これを作り始めたのが松井忠三氏だ。

業務を標準化し
ノウハウとして蓄積する

「マニュアルを作成したのは、個人の経験やノウハウに頼り、属人化していた業務を徹底的に見える化、標準化することで『仕組み』を作り、ノウハウとして蓄積するためです」

 松井氏はこう話す。「無印良品」の企画開発から販売までを行う良品計画は、1989年にセゾングループのスーパーマーケット「西友」から独立し、90年代に急成長、急拡大を遂げた。しかし、01年に業績が急落し、38億円の赤字を抱えた。同社をV字回復に導いたのが、社長に就任したばかりだった松井氏だ。

「当時の無印良品は、優秀な上司や先輩の背中を見て育つ、経験主義の組織でした。そのため、店長が100人いると100通りの売り場ができる。しかも、完璧な売り場を作る店長は、100人のうちの3人くらい。それ以外は70点程度の店になってしまいます。お客様のためには、90点の店が100店舗あったほうがいいに違いありません」(松井氏、以下同)

 仕事のスキルやノウハウを蓄積する仕組みがないため、店長が代わるたびに一からスキルやノウハウを構築し直さなければならないという問題もあった。

「会社の業績は部分最適では上がらない。全社を調整して全体最適なしくみや商品開発をしなければ改善しません。『負けた構造』から『勝つ構造』に転換させるには、経験主義がまかり通る社風を変える必要があると考えました」

 社風を変えるべく、業務を徹底的に見える化、標準化したものが、前出のマニュアルだ。