現場の知恵を集めて作り
常に更新され続ける
良品計画のマニュアルには、大きな特徴がある。現場の声と知恵を集めてボトムアップで作成されることと、現場で使う人が常に内容を更新することだ。
「最初のマニュアルは、本部主導で現場を知らない人たちが作ったため、店舗では使い物になりませんでした。再整備する際には、現場をよく知る現場の人の知恵と声を拾い上げ、ボトムアップで作成しました」
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こうして作成されたMUJIGRAMには、売り場のディスプレイから接客まで、すべての仕事のノウハウが、徹底的に具体化して網羅されている。
「MUJIGRAMでは、各項目の最初に『何を実現するために作業を行うのか』という意味と目的が『何・なぜ・いつ・誰が』の4項目で示されています。仕事の意味を理解できれば、仕事の軸がぶれませんし、問題点や不便な点を発見できるようになり、改善策を提案できるようにもなるからです」
問題点や改善策は、イントラネットの「顧客視点シート」と「改善提案」を通じて提案される。前者は、店舗スタッフが顧客のリクエストやクレームなどとともに改善策を提案するもの。後者はスタッフが自ら改善点を提案するものだ。現場発の意見は、エリアマネージャーが重複などを精査し、選別して本部に上げる。それを本部の関連部門が精査し、採用・不採用を検討する。採用された案は本部の各部門や店舗にフィードバックされ、MUJIGRAMが更新される。
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「更新は随時行われ、その都度、朝礼で伝えられ徹底されます。毎月20ページ程度、年間では全体の12%程度が改定されますが、総ページ数は変わりません。ファイルは年4回改定して各店舗に配布されます」
一般的に、マニュアルはあっても使われていないことが少なくない。それは、内容を更新しないからだ。MUJIGRAMのように常に改善されてこそ、使えるマニュアルになる。
「歌舞伎に『型破り』と『形無し』という言葉があります。型破りは、昔からの演目を名優が演じる際に、ある時、自分の工夫を入れ、それが新しい型になること。一方、形無しは型がないことです。『MUJIGRAM』が目指すのは型破り。仕事が変われば、『MUJIGRAM』も変わり、変わったなら100%実行されます」
とはいえ、2000ページものマニュアルは、読むだけでも大変そうだ。しかし、松井氏は、「MUJIGRAMは“空気のような”仕組みになっている」という。
「新人はMUJIGRAMを使って研修を受けますが、店舗に配属されたら、隣の人がやっている通りにすれば、それがその時点でのベストプラクティスになっているんです。従って100%実行でき、全員が90点を取ることができる。実際に読むのは、問題が発生した時や判断に迷った時に確認するくらいなものです」(同)
松井氏は、「マニュアルは社員全員で作り、常に仕事の最高到達点であるべき」と強調する。「仕事を見える化すれば、問題の8割が改善する」とも。
現在、松井氏はコンサルタントとして多くの企業にアドバイスを行う立場にある。「時々『MUJIGRAMをコピーさせてほしい』と言う企業がありますが、マニュアルは自社で作らなくては意味がありません。会社ごとに、それぞれの会社に合ったマニュアルの作り方があるはずです」。型があってこそ、破り、創意工夫で新しい型を作ることができる。業務を刷新し、経営改革を進めるには、マニュアルを作り方から見直すことも必要かもしれない。