3月17日、横浜は人出も多く、コロナ禍後の平常に戻ったことを実感させる。駅西口から徒歩5分のところにある横浜ビジョンセンターで、『早稲田アカデミー 高校入試報告会』が行われた。

 まず、早稲田アカデミーの中学3年の受験生たちの1年の健闘を描く動画が流される。講師が「あなたたち自身が主人公です」と語り、真剣な顔で生徒たちが聞き入る。

 首都圏の高校受験では早稲田アカデミーは圧倒的な合格実績を誇り、難関高校の対策に強い塾として認知されているはずだ。その早稲田アカデミーもこういった報告会をオンラインではなく、対面で行うのは5年ぶりだという。神奈川の高校入試は特に内申点を重視する。そういった地域性が色濃く表れる高校入試を早稲田アカデミーはどう報告するのだろうか。

私立志望者も3教科より5教科で対策を

 山口翔吾第七事業部次長兼ExiVたまプラーザ校校長が登壇し、挨拶として入試の概要を話す。第七事業部とは神奈川エリアのことをいう。

 今春、中学を卒業した生徒たちはコロナ禍で学校選びも難しかった世代だ。そして、今、教育制度はさまざまに変革されつつあり、変更が多い。東京都は高校無償化を発表し、神奈川県の高校入試もこの春から変更点があった。

 一方で、コロナ禍では遠方の学校や複数の学校を受けるなどのチャレンジをせず安定志向だったが、それが薄まってきた。そういった変化のある高校受験が続いているが、早稲田アカデミーは全体的な学力を上げることでより広い選択肢が得られると考えている。

 私立高校入試は3教科と5教科がある。国公立は5教科だ。そのため5教科で対策することで、私立も国公立も受けられる。学力があれば入試に変更があっても乗りこえることができる。変化が多い時期だからこそ、広範囲で学力を高めたい。

 2024年は、神奈川の18校舎だけで早慶附属高校に220名以上合格している。神奈川県下には慶應義塾高校、そして、慶應湘南の2つの慶應の付属校が存在する。後者は共学で高校入試は帰国子女入試のみ。前者は男子校で神奈川の高校入試では数少ない内申点を加味しない入試を行っている。そのため、慶應義塾高校は、模試での成績がよい男子生徒にはマッチした入試スタイルの高校となろう。

私立高校の書類選考枠は、併願可能なケースも

 次に登壇したのが、神子佑二第七事業部次長兼登戸校校長。首都圏国公私立高校入試の概況を神奈川を中心に解説する。

 東京・神奈川の私立は2月10日、11日、12日が試験日だ。13日は国立入試、神奈川県立は14日だ。つまり、入試日程が重ならないので、私立、国立、県立を併願することができる。大半の私立は3教科入試、国立・県立は5教科入試である。こうなると、3教科だけ対策をしようという受験生も出てくるが、受験校の選択肢を広めるために、5教科の勉強をすることを早稲田アカデミーは勧めている。

 中学受験は学力試験(ペーパーテスト)でいかに点数を取るかの勝負だが、高校入試は内申点が入ってくる。高校入試も保護者世代のそれとは変更点も多いから、保護者もきちんと情報収集をしてほしい。特に神奈川県は慶應義塾高校と日本女子大附属を除き、多くの高校で内申点が影響してくるので複雑だ。

 中学入試はほとんどが一般入試(学力試験・ペーパーテスト)で、何校も受けて難易度の低い学校で合格を得て進学先を確保しておくが、高校入試では内申点を武器に一般入試より先に合格を取っておくことが多い。神奈川の高校入試では一般入試の前に書類選考という試験があるからだ。

 推薦入試は他校との併願ができないのに対して、書類選考は併願が可能なケースもある。そうなると、書類選考で合格を決めておけば、一般入試では強気に攻めることができる。

 神奈川では中学3年の11月、12月時点の内申点によって、受験校が決まっていく。内申点は、成績は1から5まで。科目は9科目。そのため、オール4なら4×9で36となる。

 たとえば、神奈川県北部の進学校、桐蔭学園はプログレス、アドバンス、スタンダードの3つのコースがある。が、プログレスの書類選考では5教科で25か、9教科で44の内申点が必要となる。その場合、中学の成績は英国数理社でオール5でないといけない。

 アドバンスは5教科22か9教科40、スタンダードで5教科21,9教科38だ。なお、英検2級を取得しているとこれらの内申点の条件が、5教科で1点、9教科で2点緩められる。

 早稲田アカデミー生は5教科を鍛え上げているし、英検に合格している生徒も多いので、桐蔭学園の書類選考で合格を得てから一般入試に挑むことが多い。もちろん、他の学校の書類選考を受けてもいい。

 この他にも麻布大附属、鶴見大附属、横浜、横浜創学館、聖ヨゼフ、鎌倉学園、中央大学横浜などの私立高校で同じように書類選考があり、内申点でどの学校を受けるかが決まっていく。これらの私立高校の書類選考入試で先に合格を得てから、県立高校を受験すると精神的な安心感もありそうだ。

県立入試でも「内申点は微妙だが、模試偏差値が高い」タイプが有利な高校も

 県立高校入試も神奈川は複雑である。これらについては川崎校校長の桒原豊和が解説をする。

 神奈川の公立高校入試は二段階で選抜をしており、第一次選抜で90%を選ぶ。内申点と学力試験、そして、一部の学校では特色検査という科目横断型の試験を行う。この第一次選考で合格基準に届かなかった受験生が第二次選抜となる。こちらは学力検査と中学3年の「主体的に学習に取り組む態度」の評価、そして場合によっては特色検査で合否が決まる。

 2023年度まではすべての学校の共通テストで面接があったが、2024年度からは一部の学校の特色検査で面接が行われるようになった。つまり、面接を行うのは一部の学校のみとなったのだ。この変更で受験生にとって戸惑う点はなにか。

 高校入試の満点が1000点と考えて、内申点が何点、学力検査が何点、面接が何点という割合が学校ごとに異なっていたが、今回、面接がなくなり、その分の点数をどこに振りわけるかを知る必要があるからだ。受験生には「内申点はいいけど模試を受けると得点が取れない」というタイプと、「内申点は微妙だが模試では高い点数を取る」というタイプがいる。自分の強みを生かして受験校を選んでいくことが大切になる。

 去年まで面接の点数は多くが200点だったが、それが学力や内申点にどう振りわけられたのか。面接の200点を内申点に振りわけたのは新羽、白山、光陵、保土ケ谷、厚木北などの11校。200点すべてを学力検査に振りわけたのが川和、生田東、柏陽などの16校、200点を均等に内申点と学力検査に100点ずつ振りわけたのが85校。

 つまり、大半の学校が学力検査と内申点に振りわけているが、横浜市立桜丘は、内申点の割合を100点分減らし、面接の点数をすべて学力検査に振りわけた。結果、学力検査400点、内申点400点、面接200点だったのが、学力検査700点、内申点300点となり、「内申点は微妙だが、模試ではいい成績を取る」という生徒には有利な入試になっている。

 そして、進学重点校と進学重点校エントリー校でもこれらの内申点、学力、特色の各検査の比重が異なる。

※進学重点校と進学重点校エントリー校とは? 神奈川県教育委員会が、将来の日本や国際社会でリーダーとして活躍できる高い資質・能力を持った人材を育成するため、3年ごとに学力向上進学重点校及びエントリー校を指定している。参考:神奈川県教育委員会

 横浜翠嵐は学力が7、内申点が3、特色が3。

 柏陽は学力が7、内申点が3、特色が2。

 横浜緑ヶ丘、多摩、湘南、厚木、横浜国際(国際バカロレア)は学力6、評定4、特色2。

 横浜平沼、光陵、相模原は学力が5、内申点が5、特色1。

 つまり、進学重点校の中でも学力が高い受験生に有利な学校と、内申点もしっかり見るという学校とで差があることが分かる。

 さて、この特色検査というのは、学科横断型の問題を出す試験で、問題によってレベルが違うが非常に難しいことで知られる。また、学力検査でも、英語で難易度の高い長文を読ませ、社会や理科の知識を問うといった問題が出る。今年は数学の平面図形や立体図形で難問が出題された。最難関の国立や私立の入試問題にも共通する部分が多いので、そういった学校の対策をしている受験生は有利になるだろう。

 そんな神奈川の高校入試だが、公立高の募集定員は39,027人、受験生は45,890人である。全日制の学校への志願者が減り、通信制高校への進学希望者は増加し、コロナ禍を経て、子どもたちの学び方にも変化が出てきており、高校への進学にも多様性が見られるようになってきている。

早稲田アカデミーの高校入試報告会に参加して

 早稲田アカデミーの校舎は東京などに比べて神奈川は数が少ない。それでもきちんときめ細かく、神奈川地区の入試分析をし、冊子にした資料を制作し配布する。そして、その資料が実に分かりやすい内容となっている。報告会もスクリーンに資料を映し出すなどして、実に分かりやすい。

 大手塾なので「この地域に強い」という偏りがなく、どの地域にもきちんと対応をしていることがよく分かる報告会であった。