私立中学のよさがひろまり、受験率は上昇
会が始まると、日能研関東の関東中学情報部の社員が登壇し、まず「中学受験の合格の花は、受験生1人で咲かせられるものではない」と語り、そこから入試結果の報告に入った。
東大への合格実績が高い、埼玉の栄東が日本一の志願者数を記録
一般的な受験生の数などは首都圏模試センターの数字を扱うが、最大手塾の日能研は独自のデータを発表する。日能研調べで、受験生は6万5,600名で受験率は22.7%。少子化の影響で受験生は減ったが、受験率は高まっている。これは首都圏模試センターのデータと同じである。一方で、コロナ禍での過熱は落ち着いてきたという。
しかし、まだまだ中学受験熱が続くのは、私立のよさが広まっているからではないか。コロナ禍で先が見えない中、子どもの将来を考えた時に、中学受験をすれば高校受験を回避できたり、学校によっては大学まで進学できると考えたりと、安心感があるからではないか。
では今年、人気があったのはどんな学校か。
まずは1月入試の埼玉について述べる。栄東は日本一の志願者数で1万4,016名。1月10日だけでも5,522名が受験をした。東大合格実績に裏付けられた期待値が志願者を増やしているようだ。栄東は近年、A日程は1月10日と11日の2日間の入試にしていたが、2025年は1日のみに戻すという。それにより、どう難易度が変化するかは注目したいところだ。
また、開智所沢は新設校だが、地域密着グループの学校を目指すとPRし、説明会は盛況だった。また、1回の入試で開智と開智所沢の両方を受験できるという利便性も受験生を集めた要因だった。
埼玉の学校への志願者数が増えているのは、東京や神奈川からの受験生が増えているからだろう。理由として、埼玉にそれだけ魅力的な私立校があるということ、さらには交通の便がいいことが挙げられる。東急新横浜線の開業で、埼玉につながる渋谷駅にも出やすくなった。
東京では「チャレンジ層」の回避で、中堅上位校の志望者が増える
次に東京の受験者数はどうだったろうか。
まず、2月1日の御三家では男子が2023年度より100名以上減り、女子は数十人減った。御三家へのチャレンジ回避の傾向があった。その理由として、2023年度はコロナ禍の行動制限解除で、受験生たちもチャレンジしようという機運になったが、翌年はその反動で回避になった。しかし、難易度は変わっていない。
御三家相当である豊島岡、広尾、渋渋も回避される傾向であった。では、その回避した層はどこに流れたか。2月1日は中堅上位校に受験生が流れ、学習院、攻玉社、巣鴨、成城、明大中野、学習院女子、頌栄、東洋英和、普連土、三輪田、法政、明大八王子、明大明治などが受験生を増やした。
埼玉の人気校が新興校であるのと違い、保護者世代でも名前を知っているような伝統校が目立つ。例えば、芝。東京タワーの近くにある男子校で、全員にバイオリンを弾かせたり、いろいろな実験をさせてレポートを書かせたり、調査もさせることで知られる。
同じく男子校の巣鴨は、英語でインプットしたものをどうアウトプットさせるかに取り組んでいる。オンライン英会話や短期間で留学できるターム留学、イートン校へのサマースクールなどグローバル教育に非常に力を入れている。
女子校の頌栄は自分の生き方を考えるライフデザイン教育を実践し、多様な価値観、国際感覚を育んでいる。三輪田は読書教育を他教科・他科目で取り入れ、表現力や視野を高めている。また、法政大学との連携など、高大連携も進んでいる。そういった伝統校の試みが評価されたのだろう。
ちなみに、2月1日の午後は出願者が増えているが、理由は午後入試に人気校が増えたことだろう。午前はチャレンジを回避して、午後に本命を受験するパターンも出てきている。つまり、通常は2月1日に第一志望を受験し、それ以降に第二志望以降を受けることが多かったが、それも変化してきている。
こう話すと「それでは、うちの子の受験の時には、塾と相談して併願のプランを練る必要がある」というようなことを思われる保護者もおられようが、それがいいたいことではない。
人気がある学校はいずれも現状にあぐらをかかず、常に変化している学校である。新たな学び、高大連携といった要素も魅力的だが、教育は「人」であり、先生方が生徒や保護者に寄り添ってくれる、素敵な学校が私立校にはたくさんある。魅力を感じる学校にチャレンジしてほしい。
そういった私立のよさを語ると、次に受験を終えた生徒たちのインタビュー動画が流れた。
読解力が求められる問題が増え、文章を読む力が重要に
第二部は入試問題分析だ。国語、算数、社会、理科の4人の講師が壇上に並ぶ。まず、各講師が自分の担当科目の概要を解説した。
国語:定番の作家の文章を読むことで、感性を磨く
国語では「読むのは好きだけど解くのは苦手」という生徒が多いが、理由は人生経験がまだ少ないからであろう。読書で疑似体験をすることで、心情がわかるようになる。では、どんな本を読んだらいいか。
問題文で多く取り上げられるのは重松清や瀬尾まいこといった定番の作家である。特に複数回、入試がある学校はこうした定番の作家の作品を使うことが多いから、塾のテキストをしっかり読んでおくことも重要だ。説明文ではちくまプリマー新書からの出題が目立つ。説明文対策として何か本を読ませたいという場合はおすすめである。
算数:「2024」など、その年ならではの問題が出題
算数でもその年ならではの問題が出る。例えば西暦だ。今年は2024年なので、2024が計算問題に組み込まれたり、2024を因数分解したりといった問題が出た。数の性質を意識することが大切だ。こうした算数における時事問題も日能研では対策をしていく。
社会:G8サミットや新紙幣など、時事問題が例年通り出題
社会の時事問題で注目したのは、何人かの政治家の写真を並べ、G8サミットに参加していない人物を選べという問題だ。ほかにもこども家庭庁、LGBT理解増進法、新紙幣の人物の業績などが出題された。SDGsはすでに定番のテーマになっている。
理科:思考し、記述する問題が徐々に増えている
理科で徐々に増えてきているのは、意見を記述させる問題だ。八王子の穎明館の入試問題では、男性が海の中で演説をする場面の写真が提示され、この演説では何を訴えているかを書かせる問題が出た。国連の世界会議での写真で、地球温暖化で海面が上昇してきていることを示している。はじめて見た写真について考えさせ、答えさせる問題だ。
全体:読解力を問う、知識が不要な問題が散見される
各人が一通り話すと、そこからは4人で会話をしながら入試問題を解説していく。目立ったテーマは「知識がいらない問題」である。
國學院久我山の理科では何枚かの写真を見せ、「わさびの畑はどれか?」と問うている。その答えは小学校の教科書にも塾のテキストにも載っていないが、実はこの写真の前に書かれた文章の中でわさびについて丁寧に説明され、「わさびはあまり日が当たらない場所でも栽培できる」旨が記載されている。
そのため、日当たりが悪い場所の写真を選べばよい。求められるのは丁寧に文章を読む力であり、読み飛ばしをしないようにトレーニングすることが必要となろう。
社会でも同じタイプの問題が出ている。聖光では「貧窮問答歌」が資料として提示された。今までなら「作者を答えなさい」という知識問題だったが、この歌の形式を選びなさいと問い、選択肢を与える。選択肢は短歌、長歌、旋頭歌、仏足石歌と並ぶ。
これだけだとマニアックな知識を問う問題になるが、実はこれらの歌の定義が前のほうに載っているのだ。これも問われるのは知識ではなく、読解力だ。
日能研の国語の授業では、問題文を読みながら、どこに印を付けたかをみんなで共有することもある。そうやって文章の読み方を皆で鍛えていく。
それから算数の講師が卒業生からの手紙を披露し、日能研と生徒、その保護者との関係性を紹介した。日能研はどんな塾か。家庭と向き合い、寄り添い、中学受験では終わらない力を育てることを目指す塾だという。
最後に「日能研オン・ザ・ロード」で毎回新作が公開される「合格ビデオ」で受験生の1年間を紹介し、会は終了となった。
日能研オンザロードに参加して
イベントとしての完成度が高く、2時間ずっと楽しませてくれる会であった。入試分析も講師が淡々と説明するのではなく、講師同士で会話をしながら入試問題の傾向を解説していく。理科の問題に社会の講師がチャレンジしてみるシーンもあった。国語の講師は「こんな本を読んではどうか」と推薦図書を挙げ、その本を会場でも販売する。そういった読書をすすめるのは、中学受験塾では珍しいことにも思える。
保護者も「受験に勝つことがすべて」という、いわゆるお受験オタク風はおらず、自然体であった。本来の中学受験は日能研が示すものなのかもしれない。無理せずに勉強し、希望する学校の中で自分の学力に合った学校に進む。そうした受験をしたい保護者には、ぜひ出席してもらいたいイベントである。