「団体戦」として受験を乗り切る

 前半は「第一部 中学入試で求められる力とは」と題して、教育事業本部、成瀬勇一本部長が登壇し、中学受験の現状とそれに対して四谷大塚がどう対応しているかを紹介する。

 まずは受験生と保護者が受験勉強を振り返ったインタビュー動画が放映される。生徒たちからは「授業を聞くだけではなく、自分で発言をする機会が多いのがよかった」「仲間と切磋琢磨できる環境がよく、仲間と志気を上げられて力がついた」という感想が聞かれた。

 この報告会では「受験は団体戦」という言葉が何度か繰り返される。保護者、そして、仲間と切磋琢磨しながら受験に挑んでいくという「団体戦」として、受験を乗り切るというのが四谷大塚の考え方のようだ。

 また、桜蔭や開成に合格した生徒の保護者からも「勉強は100%四谷大塚さんに任せた」というコメントが複数あり、「頻繁に講師の先生と面談ができて安心感があった。ちょっと厳しい講師の先生方に助けられた」「母親の私が不安になってしまったとき、講師の先生にとりとめもない話を聞いていただいてありがたかった」というコメントが流れ、四谷大塚の面倒見のよさが垣間見える。

予習を通して「初見の問題を解く力」を養う

 次に四谷大塚の学習や指導内容が具体的に紹介される。現在、大半の塾が予習をさせない「復習主義」を取っている。こちらの方が最初から正解を知ることができ、入試をクリアするトレーニングとしては効率的だともいわれる。しかし、四谷大塚はテキスト「予習シリーズ」の名前の通り、予習をすることを大切にしている。

 自発的に学習をする姿勢、自立して勉強をする習慣を身につけることで、中学入学後、ひいては社会人になってから力にしてほしいと四谷大塚は願うからだ。

 小学生が予習をすることはハードルが高い。まだ習っていないことを生徒ひとりでテキストを読んでいくことはなかなか困難である。しかし、「正解を教えてもらう前に、まずは自分で考える」という予習主義を取ることは、現在の中学入試で求められる「初見の問題を解く力」の育成には効果があるだろう。

 四谷大塚の生徒はまず、予習をし、授業を受け、週テスト(毎週行われるテスト。一週間で学んだ内容を確認するもの)を受け、テストの見直しをする。テストを受けることで自分に足りない部分も把握でき、それを前提に次の週に向けて課題を立てていく。これを繰り返すことで、中学受験に必要な学力を身につけていく。

 記事「四谷大塚の授業・講師・テキストの特徴は? 難関校から中堅校まで幅広く対応」でも解説しているように、テキストは「予習シリーズ」を使っている。非常にオーソドックスなテキストだ。

 小学6年の夏休み前までは予習シリーズを使ってこれまでに学習した内容の総復習を行い、夏休みの間は弱点を克服し、9月以降は志望校別の対策に入っていくことになる。

ITツールやAIの活用で効率的に学習を進める

 授業は予習シリーズを使用して行うが、計算や漢字などの基礎・基本を身につけるために、タブレットを使用した「高速基礎マスター」というIT学習ツールも活用している。中学受験対策では、計算力と語彙力が重要になってくる。高速基礎マスターの「国語力5000」「計算力2000」は毎朝のドリル学習として使用できる。「日々の計算」では毎朝20問を配信。1年間で7300問をやることになる。

 また、小学6年後半は、AIを活用した学習システム「志望校別単元ジャンル演習」で、AIが生徒本人でも分からない弱点を指摘してくれる。インタビューの中でも生徒たちが「AI演習は弱点を指摘してくれるので助かる」「自分では苦手だと気づいていないウィークポイントをAIが指摘してくれる」と答えている。デジタル教材なので、常に中学受験の最新情報に合わせた問題が配信される。

 週テストの復習もタブレットで行う。テストの採点をし、間違えると解き直しをするが、その間違えた問題の類似問題が2問ほど出る。インタビューの中でも子どもたちが、AI演習によって苦手な点を指摘してもらえることやその箇所を学習できたことがよかったと話していた。

算数や国語では問題文の長文化や情報量の増加が見られる

 第二部は「教科別入試分析」で、2024年入試の分析を各科目の講師が行った。

 全体的に大学入試の変化に対応し、中学受験も変化している。センター試験が知識を問うテストだったのに対して、共通テストは読解力や情報を処理する力、そして、論理的な思考力を問う。そのため、中学入試でもかつてのような難問や細かい知識を問うことは少なくなったが、一方で問題文は長文化し、情報量も多く、それをしっかりと読み込み、情報を分析し処理する能力が必要になっている。

 まずは算数で、横浜校舎の蛭田先生が登壇した。特に難関校では、問題を解いていくことで次の問題の答えにつながる誘導を読み解いていく問題が増えている。たとえば、2024年の東京大学の数学では座標を用いて、確率を求める誘導の問題が出た。

 それと同じように、開成でも誘導を用いた確率の問題が出ている。誘導の問題を解くには読解力と論理的な思考力が必要であり、それを鍛えることが難関校対策では必要になってくる。

 また、問題の長文化が見られる。青山学院の問題は、典型問題だが、問題文が長く、条件が多く書かれている。小学生は4行を超える問題文になると理解できなくなることもしばしばあるので要注意だ。

 そして、全体的に「初見の問題」を解くことが求められている。たとえば桜蔭では正方形の辺に沿って小さな三角が回転していく問題が出た。一見、初めて見る問題だが、内容は学んでいることを読み取る力が問われている。

 次に国語を南浦和校舎の加山先生が解説する。複数の文章や会話文を用いた問題が見られ、読解力や探求力が求められる。国語における探求力とはなにか。それは具象を抽象化したり、逆に抽象を具象にしたりする能力だ。

 たとえば、フェリスでは、高齢になった祖父の登山について、家族がそれぞれの意見をいう。その家族の会話を抽象化し、意見をまとめていくことを問う問題だ。

 全体的に長文化が目立ち、その対策として、予習シリーズの6年生(上巻)の発展問題では、平均3800文字の問題文を扱っている。一方で、問題文が少ないとその分、問いが多い場合もあり、決して「問題文が少ないと簡単」ということではない。洗足学園などでは問題文は特別長くないが、選択肢を読み込んで精査しなくてはならない問題が出た。

 また、国語の対策で必要なのは、苦手なテーマの一般論を理解することだ。恋愛がテーマの文章が出ても心情が分からないことが多々あるが、一般的な恋愛感情を知識として理解する必要がある。また、論説文ではリテラシーやヒエラルキーといった小学生にはなじみのない言葉を理解しておく必要があろう。

 また、漢字の書き取り問題は解答欄が大きくなっている場合がある。つまり、「トメ・ハネ・ハライ」をちゃんと書かなければならない。国語の解答では「他人にちゃんと伝えようという気持ち」が必要となる。

理科や社会でも基礎的な知識を基にした思考力が求められる

 次に理科は中野校舎の大川先生が解説をした。理科も難問や細かい知識を問うことは減り、基礎的な知識を基に思考力を問う問題が増えている。論理的な思考力で、提示されたデータの整理をしていく問題が目立つ。

 その中には受験生が知らないデータでも、問題文をちゃんと読んでいけば解ける問題もあり、知識量よりも論理的な思考力を問う傾向が強まっている。正解にたどり着くまで手間がかかる問題も多く、やり遂げる力も求めていることが分かる。

 2024年度は時事的なテーマでは関東大震災から100年ということで、地震に関する問題が多かった。また、身の回りの知識を問う問題もいくつも出た。女子学院ではトマトの切断図、栄光ではピーマンの切断図、大宮開成ではセロリの茎の切断図を扱った問題が出題された。

 社会は渋谷校舎の後藤先生が担当した。時事問題では自然災害や水に関する問題が多かった。また、インボイスやジェンダー、Gサミット、地球沸騰などといったフレーズも目立った。

 社会は知識を覚えることがまず大切で、それを基にして、問題を解いていく。そこでも思考力が求められるようになっているので、日頃から単純なことに「なぜ?」と思う力を鍛えることが大切だ。知識の中で似ているものを並べてみたり、真反対のものを並べてみたりし、抽象化のトレーニングも必要になってこよう。

 また、社会は入試で小学4年のテキストに載っている内容が出ることがある。つまり、小学4年からの知識の積み重ねが大切になってくる。

 最後に、生徒から保護者への感謝のメッセージ動画が放映された。二人三脚で中学受験を乗り越えた親子の絆が伝えられた。

四谷大塚の入試報告会に参加して

 以上が四谷大塚の入試報告会のレポートである。老舗の大手塾らしく入試問題の分析が緻密にされており、その背後には豊富な過去の蓄積が感じられた。また、大学入試の問題と中学入試の問題を並べて解説することで、その連続性が見え、私立中学がなにを受験生に求めているかがよく分かった。

 AIを導入した四谷大塚の学習の仕組みも理解でき、これから中学受験に挑む保護者にはためになる報告会であっただろう。