中学受験算数の計算問題の点数を上げる方法

 計算力とは、正確さとスピードを備えた力です。まず、計算の正しい手法を覚え、定着するまでは量をこなしていくことが第一歩となります。しかし、手法は一通り知っているはずなのに、計算問題にミスが目立ち、点数を落としてしまう子も少なくありません。

 中学受験 個別指導のSS-1の日野泰志先生によると、「数についての感覚が乏しい場合と、計算の工夫についての知識がない場合がある」といいます。計算力を上げるためには、「自分の間違えやすいところを把握し、間違えやすい傾向を潰すような形でちゃんと練習をすることが大切」(日野先生)なのです。

途中式を書いて解き方が後からわかるようにする

 計算でミスが目立つ子の場合、式を書かずに暗算だけでやってしまう、筆算が汚くて桁がずれてしまうといった傾向があるかもしれません。しかし、保護者が「式を書こう」「筆算をきれいに」と声をかけても、なかなか子どもに響きません。あまり言い過ぎると親子関係の悪化にもつながるため、塾や家庭教師の先生など、子どもが話を聞く人経由で言ってもらうことが重要です。

計算のスピードを上げる

 中学入試の算数では、とにかく量が多いこともあり、計算処理が速ければ速いほど有利です。計算スピードを上げるためには慣れも必要ですが、やみくもに計算問題を解いているだけでは速くなりません。

 スピードを上げるためには、「正しい計算の手法を覚えること」、そして、「計算を効率化する『法則』を活用すること」の2つが特に大切です。法則については、この後の項目で詳しく解説します。

見直しをしてケアレスミスをなくす

 小数点の位置を間違える、正解なのに答えを書く段階で単位や数字を書き間違えるといったケアレスミスをなくすには、解き終わったあとの見直しが欠かせません。しかし、見直しについても式を書かない子と同じで、やらない子は保護者がいくら言ってもやりません。中には、間違えてしまっても「書き間違えていただけで、答えはあっていたのだから問題ない」と都合よく考え、改善にいたらないケースもあります。

 そうしたタイプの子には、頭ごなしに怒るのではなく、まず計算に取り組んだことや答えがあっていたことを褒めつつ、「せっかく解けたのに、点数が入らないのはもったいないよね」ということを根気よく伝えていくのも一案です。

中学受験算数の計算問題を正確に解くテクニック

 中学受験の算数では、スピードと精度を上げるため、様々なテクニックを駆使します。中学受験塾では、折にふれ、こうしたテクニックを4年生以降から授業で伝授していきます。実践で役立つ、いくつかのテクニックを紹介します。

数の感覚を養う

 例えば、「4×3.14」という計算があった場合、暗算でパッと答えが出なくても、おおむね「4×3」で12以上の数になることは直感的にわかります。しかし、数の感覚がない子の場合、「1.2」といったズレた答えになっても違和感に気付きません。この感覚は非常に個人差がありますが、こうしたズレた答えが目立つのであれば、まず数の感覚を養っていく必要があります。

 例えば、子どもが間違えた際に「これは『4×3.14』でほぼ『4×3』だよね。だから、答えはだいたい『12』ぐらいになるでしょう?」と、保護者や家庭教師の先生などが、きちんとアプローチしていくことで、少しずつ感覚が身についていくことが期待されます。子どもだけでは「小数点がズレていただけ」としか思わず、こうした振り返りをすることは難しいです。地道に、数の感覚を養っていってください。

小数分数の変換

 小数や分数を習うと、次に、小数と分数が混在した計算も登場します。ここで混乱してしまう子もいますが、数の変換をすることで、比較的楽に計算ができるようになります。「1/2=0.5」「1/4=0.25」ぐらいは、知っている子も多いですが、頻出する分数はいくつか小数に変換できるように覚えておくと非常に便利です。

 以下は、覚えておきたい分数小数の変換です。分数から小数だけでなく、小数から分数へ変換できるようにしておきましょう。

1/2=0.5
1/4=0.25
3/4=0.75
1/8=0.125
3/8=0.375
5/8=0.625
7/8=0.875
1/5=0.2
1/10=0.1
1/20=0.05

3.14の掛け算

 円周率が出てくると、3.14を使った計算が増えます。円をはじめとした図形の問題で活躍しますので、ぜひ覚えてみてください。

3.14の基本の掛け算
3.14×1=3.14
3.14×2=6.28
3.14×3=9.42
3.14×4=12.56
3.14×5=15.7
3.14×6=18.84
3.14×7=21.98
3.14×8=25.12
3.14×9=28.26

 うろ覚えだと、かえって間違いを誘発してしまうので、九九感覚で正確に暗記しておく必要があります。一桁の掛け算を覚えられたら、二桁の掛け算にもチャレンジしてみてください。

結合法則

 長い計算式などで共通の数字があった際、まとめることで計算を楽にする手法です。特に「3.14」を使った計算などで使うと、格段に計算が楽になります。一例を挙げてみます。

3.14×5.5+3.14×2.8-8.3×3.14=□

 このような式があった場合、ひとつひとつの掛け算を計算し、そこから足し算引き算をすると、時間もかかりますし、間違いもしやすくなります。そこで、式をよく見ると、すべての掛け算に「3.14」が入っていることがわかります。

3.14×5.5+3.14×2.8-8.3×3.14=□

 この場合、3.14でまとめることで、計算の工程を減らすことができます。

3.14×5.5+3.14×2.8-8.3×3.14
3.14×(5.5+2.8-8.3)
=3.14×0=0

 このように、一見長くて面倒に思える計算も、結合法則を使えば、とても簡単に解くことが可能です。

分配法則

 分配法則は、「9999」や「101」といった、キリのいい数に近い数字が出てくる計算式で威力を発揮します。以下のような計算式で使ってみましょう。

1.9999×1535=□
2.101×3.14=□
3.(100+10)×333=□

 1の式では、9999があと1を足すと10000に、2の式では1を引くと100になります。そこで、それぞれ、2つの掛け算に分けてみます。また、3の式についても、結合法則とは逆に、2つの掛け算にします。

1.9999×1535=10000×1535-1535
2.101×3.14=100×3.14+3.14
3.(100+10)×333=100×333+10×33

 このように式を分けると、最初の式よりずっと計算が簡単になります。これを分配法則といいます。

部分分数分解(キセル算)

「部分分数分解」あるいは「キセル算」と呼ばれるテクニックでは、分母の違う分数の計算を簡単にすることができます。

キセル算の問題

 このような問題があった時、何か法則がありそうだと感じませんか? 実は、分母に注目すると、すべて通分をしなくても簡単に解くことができます。最初の数に注目すると、以下のようになります。

最初の分数に注目

 つまり、

最初の分数を置き換え

と書き換えることができるのです。同じように、最初の式を書き換えてみると、

他の分数も置き換える

となり、簡単に答えが出ます。

 入試問題でも実際に出題されていますので、この決まりをぜひ覚えておきましょう。

等差数列の和の公式

 等差数列とは、差が等しく並んでいる数列を指します。

2 4 6 8 10 12 14 16 18 20

 

0 5 10 15 20 25 30 35 40 45 50

などが等差数列です。

 算数では、これらの和を求める問題がありますが、公式を使うことで、簡単に和を求めることができます。

等差数列の和=(最初の数+最後の数)×並んでいる数の個数÷2
等差数列の和

 上記のように数列を2個ずつ足してみると、各合計が22となり、等しいことがわかります。そのため、合計値×個数÷2という式で、和を求められるというわけです。入試ではここまで簡単な問題は出ませんが、覚えておいてほしい公式のひとつです。

中学受験算数の計算問題のおすすめ問題集・参考書

 計算問題については、塾に通っている子どもであれば、まず、それぞれの塾が日課として出している計算問題のテキストを欠かさず取り組むことが大切です。10分もかからずに終わるものが多いと思いますので、保護者が声がけなどのサポートをしつつ習慣化させましょう。

 さらに、手法を確実なものにする、量をこなすというのであれば、以下のような問題集や参考書がおすすめです。

中学入試計算名人免許皆伝―計算問題が速く確実に解けるようになる本(東京出版)

 計算問題の参考書として、多くの人に支持されている本書。計算の工夫が段階的にわかりやすく解説されています。前半の計算は低学年からでも取り組めるので、二桁の掛け算を始める時期になったら、ぜひ読んでみてください。

中学受験 すらすら解ける魔法ワザ 算数・計算問題(実務教育出版)

 分数や小数、法則やN進法など、計算の基本を覚え、そのうえで早く計算するテクニックを学び、問題で実践していきます。始める時期は、最難関校を目指すのであれば小5の二学期、中堅から難関校志望なら小6の夏休みが目安。YouTubeの無料動画とあわせて取り組むのがおすすめです。入試直前用30日間のテストもついています。

マスター1095題 一行計算問題集 シリーズ(みくに出版)

 1年生から取り組むことができる、日能研の計算問題集です。みくに出版の公式サイトにお試しできるPDF版が公開されているので、まずはこちらを印刷して、子どもと一緒に取り組んでみるのもよいでしょう。答えが別冊になっているため、管理もしやすいです。

中学入試 でる順過去問 計算 合格への920問

 入試で頻出される計算問題を集めた問題集。計算の手法を確立させるために、たくさんの量をこなしたい場合は、このような良質な問題がたくさん掲載されている教材がよいでしょう。

中学受験算数の計算問題まとめ

 いかがでしょうか。計算力は一日にして上がるものではありません。かといって、6年生の段階で、大量の計算問題を解いている余裕がないのも事実です。

 苦手であればなおのこと、毎日少しずつでも続け、量をこなしていくことが上達への道です。習慣がつくまでが大変かと思いますが、無理強いしてやらせようとせず、子どもが学びに取り組みやすい環境をつくってあげてください。