中学受験での志望校の選び方

 まずは中学受験における志望校の選び方について、説明しましょう。最初に考えておくべきことや、話し合いを通じて行うべきイメージの共有、また大学付属校受験に関することまで、色々とお伝えしようと思います。

志望校選びでは、まず子どもの将来を考えましょう

 志望校選びを始める際、最初に考えておくべきなのが、子どもの将来です。子どもにどのような中学・高校の6年間を過ごしてほしいのか。そして、卒業後はどのような大人になってほしいのか。こうした将来に関するイメージが、親子で同じとは限りません。そのため、子どもの将来についてイメージを共有できるよう、家族でよく話し合うことが大切です。

 話し合う際には、希望の条件を整理し、重視するポイントを決めるように意識しましょう。条件/ポイントとは、例えば「進学校と大学付属校のどちらが良いのか」「男子校・女子校と共学のどちらが良いのか」「校風や部活動、通学時間、進学実績、留学制度などのうち何を重視するのか」といったものです。このポイントをしっかり整理しておくと、実際に通学し始めてからギャップに苦しむことが少なくなります。

 志望校の決定について最終的なカギとなるのは、やはり子ども自身の意思でしょう。実際に学校に通うのは、あくまでも子どもです。また、合格に向けて実際に勉強をするのも、子ども本人です。そのため、子どもが本気で「行きたい」と思う志望校を持つことは、中学受験の成功にとって大きな強みであり、必須条件とも言えます。

直接足を運ぶことで、入学後の生活を鮮明にイメージする

 行きたい学校のイメージがある程度つかめてきたら、次は具体的な学校を見つけていく作業に移りましょう。家族で決めた条件をベースにして、許容範囲を決めてから4~5校くらいに絞ってみてください。

 この時に気を付けてもらいたいのが、偏差値にこだわらず選定を進めることです。偏差値だけで学校を選んでしまうと、子どもが本当に行きたい夢の志望校を見逃してしまうかもしれません。この段階ではまだ偏差値を考慮せず、子どもの進路を狭めることがないよう注意しながら選定を進めてください。

 絞り込みができたら、次は情報収集にとりかかります。近年はオンラインで収集できる情報が増えており、ホームページで紹介動画を視聴できる学校も増えました。こうした情報源を活用し、学校のことをより詳しく調べていきましょう。

 ただ、本当に気になった学校については、やはり直接見に行くことをおすすめします。実際に学校行事や説明会に足を運ぶのも良いですし、学校までの道のりを経験したり校舎・グラウンドを見学したりすることも良いでしょう。直接見ると、入学後の生活をより鮮明な形でイメージできるはずです。

 こうした志望校探しを経て、1校でも「ここだ」と思える学校が見つかれば、その学校に似た学校を探して比較してみましょう。比較を通じて各学校の特長が浮かび上がり、志望順も自然に決まっていきます。

卒業後の進路から、将来像をイメージする

 将来の夢や進路希望がはっきりしている場合は、進学実績などのデータから逆算して志望校を考えるのも、手段としては有効です。例えば、東大に行きたいのであれば東大合格者が多い学校が、医学部に行きたいのであれば医学部合格者が多い学校が、良い選択と言えるでしょう。過去のデータを確認すると、こうした選択肢の絞り込みが可能になります。

1都3県「東大+京大+医学部」合格者数が多い中学・高校

1都3県「東大+京大+医学部」合格者数が多い中学・高校
※各校のHPにて公表されているデータを基に算出
※備考欄に記載のないものは、2021年~2023年 3年間の平均値(小数点以下切り捨て)。医学部・医学科に防衛医科大学を含まない
※平均合格者数は「東大+京大+医学部」から東大理Ⅲ・京大医学部を差し引いたもの。学部別情報のないものは重複分が含まれる可能性がある

 進学実績などのデータを見る際は、最新年度の数字だけではなく、過去2~3年分の実績も見るよう心がけましょう。実績データでは、「現役合格者が少ない年の翌年には浪人の合格が増え、合格者の総数が増える」といった隔年変化が生じます。データはとかく最新のものに目が行きがちですが、高精度で進学実績を把握するためにも、過去データに目を通すようにしてください。

大学付属校といっても内部進学率は様々

 進学実績などの確認は、大学付属校を検討している場合でも必要です。大学付属校といえば確かに、大学受験というプレッシャーを感じずに専門分野の勉強/スポーツにじっくりと取り組める点が大きな魅力になっています。この魅力を重視して大学付属校を目指す家庭も、決して少なくありません。

 しかし、大学付属校の大学への内部進学率は実際のところバラバラです。人気が特に高い早慶やGMARCHといった有名大学系列の付属校であっても、内部進学率は異なります。外部受験クラスを設けている学校や、内部進学より他大学を受験する生徒の方が多い学校も、実際に存在するのです。

早慶付属(系属)校の内部進学率

早慶付属(系属)校の内部進学率
※各校のHPにて公表されている2022年度のデータを基に算出

 大学付属校については、他大学へ進学する際のルールに違いがあることも注意した方が良いでしょう。推薦資格を保持したまま他大学の受験を認めている学校もあれば、放棄しなければ受験を認めない学校もあります。また推薦資格を得る条件そのものも学校ごとに異なり、「定期テストの推薦基準が比較的高め」「定期テストとは別のテストで基準点を超えている」など多様です。

 大学付属校を検討する際は、希望とのズレがないかを確認するためにも、学校ごとの進路状況などをよく調べるようにしてください。

中学受験の併願戦略

 ここまでは中学受験における「夢の志望校」の選び方について説明しましたが、「夢の志望校」の合格を実現するには併願戦略も重要です。何より、併願校の合格を勝ち取った後で志望校を受験すると、心の余裕が生まれ、実力を発揮しやすくなります。「第一志望以外は興味がない」といった場合でも、この余裕はきっと受験の大きな支えになってくれるでしょう。

 ここからは、そんな併願戦略についても説明していこうと思います。

併願戦略のポイントはメリハリと流れ

 併願戦略を考える前に、改めて中学受験の特徴を把握しておきましょう。中学受験は、大学入試のような共通テストがなく、学校ごとに出題傾向が明確に異なります。したがって、画一的な入試対策では対策になり得ません。

 また中学受験は、試験から合格までの期間が短いのも大きな特徴です。早ければ、受験当日の夜には合否が判明します。受験生が12歳の小学生であることを考えると、この結果がメンタルに与える影響は計り知れないものがあります。

 翌日に別校の試験を受ける場合などは、大きな影響も受けかねません。併願について考える際は、こうした点も前もって考慮しておく必要があるでしょう。

 第一志望合格につながる併願戦略のポイントは、メリハリと流れを意識することです。

勢いをつける併願パターン

 難度の高い挑戦校の受験日前に、適正校や有望校を受験して合格を勝ち取っておくと、メンタル面で大きな勢いがつきます。

危険な併願パターン

 逆に、挑戦校の入試を立て続けに受けるのは、メンタル的にリスクが高いと言わざるを得ません。

 併願校を選ぶ際は、「適正校→有望校→挑戦校」といったメリハリの利いた受験スケジュールを組めるかどうかを意識すると良いでしょう。

 併願戦略では、入試全体の流れを想像しながら志望校を選ぶことも大切です。例えば、1月入試などを活用しながら合格校を確保しておくと、気持ちが楽になり、第一志望の受験において本来の実力を発揮することができます。中学受験は短期決戦であるため、メンタルの動きは合否を左右する重要な要素になるのです。

 併願校の入試日程を見直し、第一志望の試験にベストな状態で臨める日程になっているかどうか、よく確認しておきましょう。

過去問演習を最優先。的を絞って得点力をアップ

 短期間で偏差値そのものを50から60まで上げるのは、簡単ではありません。しかし、特定の偏差値60の学校に的を絞って対応力や得点力を高めることは、十分に可能です。併願校受験に向けた勉強では、この「的を絞った得点力アップ」を意識しましょう。

 的を絞って対策を行う際には、過去問演習が重要になります。日々の学習スケジュールも、過去問演習を最優先で組み立てるように意識してください。

 過去問演習に取り組む際は、全科目を同じ年数で行うのではなく、科目の特性に合った年数で行いましょう。その方が、効果が上がります。

 算数・理科の場合は、出題傾向が時代に左右されないため、さかのぼって多くの年数の過去問に取り組んだ方が有効です。社会の場合は、出題傾向が時代に左右されるため、近年の問題を解くとともに、傾向が似た学校の問題の対策を行うと効果が上がります。国語の場合は、初見で問題が解けるかどうかが重要となるため、年数を問わず自分にとって初見の問題を解いてください。

 現状の得点力や配点なども考慮して、トータルで合格ラインを超えられる配分で対策を行うと良いでしょう。

まとめ

 以上、「夢の志望校」の選び方と併願戦略の立て方について説明いたしました。受験において一番大切なのはあくまでも学力ですが、それ以外のファクターが持つ重要性も見逃せません。特に中学入試では学力以外の要素のウェイトが大きくなり、合否を左右する場合さえあることが、ご理解いただけたかと思います。

 受験する本人の「夢」が何なのかを明快にした上で、その実現に向けて正しい戦略を立てていただければと思います。