加害者側の強い主張でぶれる判断基準
模擬調停で用いる事例には、あえて「加害者側が100%悪い」内容の事例を設定しています。ただし、調停委員役にこのことは知らされていません。加害者側、被害者側双方から事実関係を正確に聞き取り、それらを時系列に添って整理しないと判断がつかないようにしています。
それは、実社会で起こるトラブルでも、当事者はそれぞれの立場から遠慮なくどんどん主張してきますから、仲裁役を担う人には、場の雰囲気に流されず、事実関係を適切に整理していく能力が求められるためです。
また、模擬調停を進めるにあたっては、少しいじわるな演出を施しています。例えば、加害者代理人役には、「とにかくたくさん屁(へ)理屈を述べよ」「被害者側が『加害者に謝ってほしい』と要求してきたら、『被害者も謝るならこちらも謝る』という条件を提示せよ」といった指示をしています。実はこの演出が、模擬調停で“中立”を学ぶ鍵となるのです。
事例は、「加害者側が100%悪い」内容ですから、調停委員役が真に“中立”であれば、「(加害者側が100%悪いので)加害者は被害者にきちんと謝りましょう」と促すことになるはずです。ところが、加害者代理人役が加害者の正当性を強く主張し始めると、その内容がたとえ屁理屈であっても(屁理屈と気づかない場合もある)姿勢がぶれ始めます。
つまり、加害者代理人役の勢いに押されて、「加害者側を説得するよりも、被害者側を説得する方が楽だ」と考え始めてしまいます。すると、本来は「ない」はずの「被害者側の落ち度」を見つけ出し、「被害者側にも落ち度があったのだから、お互いに謝りましょう」と説得し始めてしまうことがあるのです。