“ディスカッション”が授業の本筋に
2014年に東京工業大で行われた「国際教育シンポジウム」で、MITの当時のエリック・グリムソン副学長が、「もう講堂のような大きな教室は要らない。一方的に知識を伝授するような講義はビデオ動画で十分である」と指摘した。では、大学の授業で何をすべきか。
「小さなグループでディスカッションをすることだ」とグリムソン副学長は述べた。ディスカッションをすることで、他者の考えを理解したり自分が想像をしていなかった状況をイメージしたりすることで、思考を深めて鍛えていくことが求められるのだ。
その後、東工大では1年生全員が受講する「東工大立志プロジェクト」という講座を開設した。講堂で講義を聞き、その翌週には小グループで対話をするという講座だ。こうしたスタイルの講座は、東京理科大理工学部(2023年4月創域理工学部に名称変更)でも「創域特別講義」として開講されており、大人数で講義を聴いた後、他学科の学生とともに一つの課題に対して、グループワークで解決を図る内容となっている。
図らずも、コロナ禍で大学の授業はオンラインになり、多くの大学でインターネットを介して知識の伝達を動画で行い、小グループでディスカッションするスタイルが導入されるようになっている。
大学教育の真価は、小グループでのディスカッションにあるのではないか。突き詰めて言えば、そこにしか大学の個性はない。そうした授業は、従来、ゼミや研究室によって担われてきた。私立大理工系では早慶に次ぐレベルの大学で、「この大学の理工学部の特色は何か」という話題になった。そこで出た答えは、「特色は個々の研究室にあり、学部としての特色はない」というものであった。
全学共通科目のような、かつての教養科目は、特に大学・学部の特質を表すものばかりではない。語学などの“スキル”もそうだ。大人数の講座は、知識伝達が中心であり、これはオンライン講座で構わない。
河合塾で「サテライト講座」を始めた頃、「これからの予備校講師は、各教科科目で1人いればいい」と言われた。そこまでではないにしろ、どこの大学にでもあるような講座、特に大人数で開講される知識伝達型の講座はどんどん大学間でシェアされていくのだろう。少子化で、教員不足は初等中等教育に限った話ではないことも、こうした流れに拍車を掛けていく。
その一方で、教室数といった物理的な制限がなくなる講座のオンライン化により、講座を増やしやすくなる。学生の広い興味関心に対応すべく、多様な講座が開設されていくことだろう。これまでの大学のマスプロ教育を象徴する「階段教室」のような大教室の多くは、今後消え去ることだろう。
同じ階段教室でも、冒頭に掲げた写真のように、明治大の和泉キャンパスにできた新校舎では、学生同士、学生と教員のコミュニケーションを図りやすいものとなり、定員も小さくなっている。早大では、既に定員50人以下の教室が8割を占めるという。大教室が残るとしても、学会や大学の行事やイベントで活用する程度のものになるだろう。
>>次回に続く