英語民間4技能テストの位置付け

 ここで、共通テスト導入に至る経緯を改めて振り返っておこう。

 そもそも共通テストは、英語民間4技能テストをどのように活用するかでつまずいた。「高校側が導入に前向きだ」という文部科学省からの報告が決め手になり、国立大学は共通テストでの民間4技能テストの導入を決めたと、国立大学協会会長で京都大総長だった山極寿一氏から聞いた高校関係者が怒りをあらわにした様子を、筆者は眼前にした。

 当時は、実施要領が文科省から高校側に明らかにされず、関係者は大いに気をもんでいた。文科省との対話も硬直化しており、実施に懐疑的だった高校関係者が怒るのも無理はない。

 ありもしないことを報告してさらに混乱を招いた文科省は、その後、萩生田光一大臣(当時)の「そもそもの立て付けに無理があった」との判断で、4技能テストの導入を断念することになった。高校側が最後まで不安視していた実施運営、評価に関する疑念は最後まで拭われることなく、導入中止が決まった。

 当時、文科省の方針に沿って英語4技能テストへの対応を積極的にしてきた高校は、この判断に“はらわたが煮えくり返る”ほどの怒りを示していたが、2021年度入試を見ると、こうした生徒たちの取り組みは多大な合格実績を上げることにつながっている。

 その結果、いまでは大学側に「英語でしっかりと4技能を身に付けている入学者が増え、これまで大学で設置していた英語の講座が必要なくなるほどだ」と言わしめるほどになっている。英語民間4技能テストは、共通テストに導入されなくても、私立大では一般選抜で活用されるようになり、実質的に大学入試を変えることに寄与している。

 インターネットの発達とも相まって、コミュニケーションのあり方が「読む」「書く」ことから「聞く」「話す」へと転換しており、共通テストでも会話を重視した内容が出題されるようになっている。

 先日、公立中高一貫校の英語の授業を参観する機会があった。中学でも高校でも「英語オンリー」で授業が展開されていた。高2の英語の授業では、教員と生徒が普通に英語で対話をしながら授業を展開しており、「英語を学ぶ」のではなく「英語で学ぶ」印象を受けた。
 
 確実に日本の英語教育は変わってきている。文科省の英語民間4技能テストの共通テストへの導入は勇み足だったのか、その議論があったからこそ授業が変わったのかの判断は難しいが、高校や大学との信頼関係を損ねたり、受験生に不安を与えたりしてまで導入を強引に推し進めなくて良かったのではないかと、いまにして思うところである。

 大学入試で4技能を審査する上でネックとなっていた「話す」も、早稲田大発のスタートアップ企業が「対話指向英語スピーキング能力自動判定システム」を開発したことで前進しつつある。23年4月から早稲田大で実際に運用することが計画されている。評価が難しかった「話す」を技術が解決する日もすぐそこまで来ているのかもしれない。