共通テストは何を目指しているのか

 冒頭のイラストは、2022年度「数学IA」の問題文中のもので、2人の生徒がタブレットらしきものを見ながら話し合っている様子が描かれている。日常の授業でタブレットを使ってグラフを描写し、そのグラフの数値を変えていくと、どのような変化が見られるのか、そこから何が分かるのか。

 出題の内容を見ると、グラフを動かして思考するような理解の仕方を、日常の授業に求めているようだ。共通テストの導入において、この数学で色濃く出ているように、日常の高校の授業を変えてほしいという願いが、各教科科目にもじわじわと出ているように感じる。

 従来の大学入試センター試験では、平均点を60点にすることで正規分布を描くことができるような出題を目指していた。一部の大手予備校で大きな勘違いをしているが、共通テストは平均点を上げるため出題内容をやさしくするようなことはしない。だから23年度の数学も、平均点は低いままかもしれない。
 
 そもそも50万人を超える受験生の幅広い学力層を、一つの試験で学力判定をすることには無理がある。センター試験と共通テストの最大の違いは、後者では大学教育にふさわしい学力が備わっているかどうかを判定する試験になったことにある。

 いまは「大学全入化時代」。選ばなければいずれかの大学に行ける時代であり、高校時代の成績が良くなくても進学できる。一言ではくくり切れないほど、大学入学者の学力層には広がりがある。大学がエリートのための教育機関だったのは遠い昔の話であり、同じ問題で一律に学力判定することはなかなか難しい。学力上位層にとってはやさしくても、学力下位層には歯が立たない問題があることは容易に想像できる。

 そうした状況下で、センター試験では1点刻みで順位を付けることが意図されたものの、共通テストでは理解できている受験生とそうでない受験生の識別ができることに注力している。実際、平均点が低かった22年度の数学においては、数学ができる受験生とそうでない受験生とでは有意差が見られ、十分に識別できていることが、ベネッセの調査などで明らかになっている。

 数学の教員に聞けば、どのような生徒が得点できていたのか、あるいはできていなかったのかはだいたい分かる。得点できなかった生徒は、解法を覚えて模試の成績を上げていたような生徒だ。解法を覚えることが数学を学ぶことではないことは、数学を教える者であればみなさん理解していることだろう。

 だから、大学入試センターは22年度の出題に十分な自信を持っており、平均点が上がるよう問題をやさしくするようなことは考えていないと思われる。もし平均点が上がるとしたら、計算量の調整と、なによりも高校や予備校での授業が変わったことによるものとなるだろう。こうした考え方や方針は、数学はもとより、英語や国語をはじめ、全教科・科目に共通しているはずだ。