「事実」と「評価」を分けて実態を探る

 日本のいじめは、暴力よりも悪口や無視、仲間外れなど“コミュニケーション操作系”のいじめが多いといわれています。この種のいじめは証拠が残りにくく、事実認定が難しい側面があります。今回のケースでも、「仲間外れにされている」というBさんの主張をどう裏付けていくのか、裏付けるだけの証拠はあるのか、この点は非常に重要です。

 そのためには、まず情報を「事実」と「評価」に分け、「事実」に真摯(しんし)に向き合うことが大切です。「事実」に向き合ってはじめて、何が起こっているのかという実態が見えてくるため、この「事実」と「評価」の峻別(しゅんべつ)は、裁判実務などでもかなり厳密に行われる作業です。

 例えば、「仲間外れ」は「事実」ではなく「評価」です。「BさんがCさんとDさんに話しかけても2人は無反応だった」とか、「Bさんだけ映画に誘われなかった」などの「事実」の積み重ねが、結果として「仲間外れ」と「評価」(判断)されるのです。

 一口に「仲間外れ」といっても、人によって思い浮かべる行為はさまざまです。その時の状況や前後の文脈などによっても、ある行為を「仲間外れ」と考えるか否かは変わるでしょう。これに対し、「Bさんだけ映画に誘われなかった」などの「事実」は、状況や人の主観などに左右されることはありません。

 ですから、「何が起こったか」を明らかにするためには、状況や人の主観などに左右される「評価」を手持ちの情報からできる限り排除して、「事実」を丁寧にすくい上げていく必要があるのです。

 なお、E先生は、Bさんの「仲間外れ」について「ほかの生徒にも聞いた」ということですが、もし、「CさんやDさんが、Bさんを仲間外れにしているのを見たか」などという聞き方をしたのであれば、それは適切ではありません。

 仮にその生徒が「Bさんが話しかけても無反応だったCさんとDさん」の様子を目撃していたとしても、目撃した行為を「仲間外れ」と認識していない限り、答えは「見ていません」となる可能性が高いからです。まずは、通報したAさん、被害を訴えるBさんが、どの「事実」を基に「仲間外れにされている」と判断したのかが大切であり、その点を丁寧に聞き取っていく必要があります。

 今回のケースに出てきた情報から「事実」と判断できそうな内容は、おおむね次の通りです(厳密には一部「評価」も含みます)。

■Aさんの見聞から導けそうな「事実」
・Bさんが最近教室に1人でいることが多い
・CさんとDさんがBさんの悪口や「Bさんには近づかないようにしよう」と言っていた

■Bさんの言い分から導けそうな「事実」
・Bさんは、CさんとDさんの行為を「仲間外れ」と感じ、とても辛く学校に行きたくない気持ちになった
・(CさんとDさん以外の)友だちが小声で話したり、笑ったりしていた
・Bさんは、上のような友だちの行為を自分に向けられたものと感じ、とても辛く学校に行きたくない気持ちになった

 このように見てみると、実は、Bさんの言い分からは、CさんとDさんの行為に関する「事実」や、それ以外の友だちの“Bさんに対する行為”に関する「事実」がほとんど分かりません。根掘り葉掘り聞いてBさんを追い詰めるようなことがあってはいけませんが、Bさんのお母さんは、今からでも「どうして仲間外れと感じたのか」「どうしてひそひそ話や笑いが『自分に向けられたもの』だと思ったのか」などを、「事実」に基づいて聞くとよいでしょう。

 また、Aさんに対しても、Bさんのお母さんは、「どうして仲間外れと感じたのか」はもちろん、「Bさん1人で教室にいた日時や状況、回数など」「CさんとDさんが言っていた悪口の具体的な内容、日時など」……を可能な範囲で改めて具体的に聞くとよいでしょう。事実確認を行う責務を負うE先生(学校側)にも同様のことが求められます。