「物証」だけが証拠ではない
テレビドラマなどの影響もあり、いじめの「証拠」というと「ボロボロにされた教科書」や「落書きされた上履き」などの「物証」を思い浮かべる人も多いかもしれません。しかし、「物証」に限らず目撃証言などの「人証」も証拠になります。
このケースの場合、Aさんの証言はBさんの言い分を裏付ける重要な証拠です。特に、コミュニケーション操作系のいじめでは、その態様がSNS上のいじめのように形に残るものでない限り物証も人証も現れにくいですから、その重要性はより高まります。ですので、Aさんのように「証言してくれる存在」を保護する意味で、(1)証言者の安全確保、(2)証言が変わる可能性を視野に入れる、という主に二つの観点からの配慮が必要になります。
そう考えた場合、Bさんのお母さんはAさんに事前に断ることなく、E先生に「Aさんから聞いた話」を話してしまっていますが、これは証言者の安全確保への配慮を欠く行為です。この後、AさんはE先生から問い詰められる(それも「聞き間違い」や「勘違い」を疑われた状態で)可能性が高く、そうなればAさんが極めて不安定な状態に置かれてしまいます。
ですから、Bさんのお母さんとしては、Aさんから話を聞く過程で「どの話をどこまで学校に話してよいか」「Aさんの名前を出すことは可能か」などを確認しておく必要がありました。
加えて、Aさんの証言が今後変わる可能性も心得ておく必要があります。時間の経過で記憶が薄れる場合もありますし、Aさんの名前を学校に明かす場合は、矢面に立つ心理的負担から証言があいまいになってしまうこともあり得るからです。
大切なのは、Aさんから聞き取ったことを聞き取った日時も含めてメモを取るなどして記録しておくことです。そうすれば後々、Aさんの名前を出さなくても「Bさんが学校を休みがちになってきた時点でこのような証言をしてくれた人がいた」という事実は残ります。