茨城県南部と西部は首都圏の影響下に
全国的に見ても、最も大胆に変身を遂げたのが茨城県の公立進学校だろう。1989年をピークに県内の中学卒業者数が減少に転じたことから、「県立高等学校再編整備の基本構想」(2001年)に基づき、第1次(02年)と第2次(09年)の「県立高等学校再編整備の基本計画」が策定され、一挙に公立進学校の中高一貫化が進むことになった。この間、06年に学区は廃止されている。
茨城県もまた、公立進学校は男子校と女子校に分かれていた。日立、水戸、土浦、石岡、結城、龍ケ崎、下妻、水海道、古河、取手、下館、鉾田各市にはいまも残るが、第一は旧制中学、第二は旧制女学校を前身とする例が多い。現状ではいずれも共学化しているが、実質的には女子校となっている学校もある。
現在、三つの中等教育学校を含む13の県立中高一貫校がある。これは、東京にある都立と区立の11校をしのぐ全国一の校数である。嚆矢(こうし)となったのは、08年に立ち上がった並木中等教育学校(つくば市)で、今回は4位と茨城県立校のトップとなっている。12年には5位日立第一が中学校を併設した。13年には17位古河中等教育学校が県立総和を母体に開校している。
令和に入ってからは中高一貫化が加速した。20年には太田第一、鉾田第一、鹿島、29位竜ケ崎第一、35位下館第一が、21年には14位水戸第一と9位土浦第一、勝田中等教育学校が、22年には20位下妻第一と水海道第一がそれぞれ中学校を併設した。
水戸第一出身の大井川和彦知事の下、中高一貫校化を加速することで、難関大への進学力のてこ入れを図ったとみていい。知事は東京大から通商産業省に入省し、その後マイクロソフトなどのIT企業を経てドワンゴの取締役に就いていた。そうした経歴から新しいことには積極的であり、角川ドワンゴ学園のN高等学校に続く、S高等学校の県内設置も実現できたのだろう。
県内の地区割と同じ旧学区ごとに見ていこう。県北の旧第1学区からは、5位日立第一のみがランクインした。地域内の全人口が水戸市と同じくらいと少ない鹿行の旧第3学区は、図中に該当校がなかった。
県央の旧第2学区は、いずれも水戸市の14位水戸第一、18位緑岡、28位水戸第二、38位水戸桜ノ牧が入っている。水戸第一は旧制一中の伝統校で、県内ライバルの土浦第一と同時に中学を付設した。水戸第二は旧制高等女学校の後身であるが、宮城県の仙台二華と同様、共学校の看板を掲げてはいるものの、実質女子校である。緑岡は62年開校で理数科を設置している。団塊の世代対応で開校した学校の一つであり、82年開校の水戸桜ノ牧は団塊ジュニア対応の学校といえるかもしれない。
県南の旧第4学区は9位土浦第一、29位竜ケ崎第一、30位土浦第二、34位牛久栄進が入っている。土浦第一は、北関東にある旧制中学トップ5校の一つとして、水戸第一とは常にライバル関係にあるが、近年は若干優位にある。土浦第二は48年の学制改革で現校名となっている。スーパーサイエンスハイスクール(SSH)にも指定されたことがある竜ケ崎第一に女子生徒が入ってきたのは51年からである。牛久栄進は87年開校と新しい。
県西の旧第5学区からは、つくば市の4位並木中等教育学校と7位竹園のほか、17位古河中等教育学校、20位下妻第一、35位下館第一と5校が入っている。
筑波研究学園都市のあるつくば市には、79年に県立竹園と筑波大(旧東京教育大)の同窓会によって私立の茗渓学園中学校高等学校が設立されている。図中にはないが、つくば工科が23年から校名変更する「つくばサイエンス」といったユニークな学校もある。県下初の公立中高一貫校である並木中等教育学校がこの地に設けられたのも、高学歴で教育に熱心な家庭が多いことの証左だろう。他に、10周年を迎えたばかりの古河中等教育学校、旧制中学からの20位下妻第一と35位下館第一がある。
首都圏の埼玉県や千葉県に近い県南や県西は、JR常磐線や高崎線、つくばエクスプレス沿線に私立中高一貫校が並んでおり、その影響を県立進学校も大きく受けている。
※次回に続く