3層化した日本の大学受験生の向かう先

――大学間の構造的な問題が、大学入試にも影響を与えている様子もうかがえます。

井沢 秀(いざわ・しげる)
大学通信情報調査・編集部部長。1964年神奈川県生まれ。明治大学卒業後、大学通信入社。「夕刊フジ」をはじめ、各紙誌で大学に関する多くの連載を持つなど、精力的に発信を続けている。 Photo by Kuniko Hirano

後藤 大学入学者数は63万人ほどですが、大学受験生は3層化しています。第1層である最上位5%ほどの学生が旧帝大や早慶といった難関大や医学部医学科に進み、第2層である次の10%くらいがMARCHや関関同立、地方国公立大などに進みます。
 
 早慶よりもMARCHの方が一般選抜の比率は大きい。それは早慶を落ちてくる学生を拾うことができるからです。そして、第3層となる残りの85%のうち、入学定員合計が約3万人の日東駒専を境にして、上位ランクの大学から不合格者が流れてくることが期待できない大学は、先ほど見たように非一般選抜で学生を確保することになります。

井沢 関西では、総合型選抜と公募の学校推薦型選抜の併願もありますね。年内受験の合格者には優先的に奨学金をつけるところもあります。そうした受験生は一般選抜で国立大など難関大を受ける。国公立大の合格発表まで入学手続きを待ってくれる大学もある。

後藤 学力の高い受験生が混じるよう特待生試験などをやり、志願者を増やして、ある程度レベルを上げていくというやり方もあります。ならば、受験生はそれをうまく使いたいですね。先日、24年新設の武蔵野大ウェルビーイング学部に総合型で合格した生徒は、4年間学費免除という特待生になりました。浮いた学費相当分を使って留学しようともくろんでいます。一部を除けば、大学間の就職格差はなく、むしろ、留学して知見を広げた方が大学卒業後はなにかと優位になりますからね。

井沢 神奈川大の給費生と同じ感じですね。そういう特待生制度は、1年次の成績が悪いと見直しされるのが一般的ではありますが。

後藤 そもそも勉強する気がない受験生が増加してきて、勉強しない学生の水位がどんどん上がってきているのが現状です。母校の南山大学から先月電話がかかってきました。東海地方のトップ私立大である南山大であっても、この少子化の中で、いずれ学び方を知らない、大学教育にふさわしくない学生が交じり始めることに危惧を抱いています。

 名古屋は大学が多いので、大半の私大受験では学力試験が関係なくなっている。そもそも他地域からの参入がない地域ですから「赤信号、みんなで渡れば怖くない」って感じで勉強しなくなっているんです。これは一大学の問題ではなく、東海地方の危機ですね。
 
 河村たかし名古屋市長が「市立高校入試を廃止する」と息巻いているそうですが、廃止するのでなく「高校入試が機能しなくなる」ことを想定した発言じゃないのかな。うまく機能しなくなったときに中学生の学ぶ意欲はどうなるのか。一部地域でトップ進学校が定員割れを起こす状況が散見されるようになりました。トップを目指さないんですよね。中学受験でも母親が傷つく息子の姿を見たくないと、負けない受験しかさせないといった話も数年前から出ています。これが「草食男子」を生んでいるという話なんですが(笑)。少子化の影響は大学入試よりも先に高校入試にやってくるわけですから。

―――悪貨が良貨を駆逐する状態ですね。

後藤 国公立大志向が強い地域ですから「国公立大を狙え」と共通テストを受けさせられますが、それができない高校では、これくらいでいいかと生徒の学習指導を妥協してしまいます。合格実績だけを求めて、私大文系3教科のように入試科目も絞る傾向があるので。高校生は余計勉強しなくなる。 高校での文理選択を止めろという声がありますが、文理選択を止めるのではなく、数学を含めたバランスの良いカリキュラムで学べという話だと思います。

 それに、いまや人文社会科学系の学問でもデータを扱うことは普通です。だから数学を学ばないことはあり得ないんですよね。むしろ、高校で数学や理科を深く学ぶ「理系特化」は必要なんですが。それ以外の大学進学を考える生徒は幅広く教科を学び基礎学力を充実させて、探究学習で自分の興味関心のある分野を深く学ぶようにしないと、大学入学後の教育を享受できなくなります。

―――私大だと3教科が普通でしたが。

後藤 1教科入試もあります。一般選抜の合格者数は減っていくので、大学の偏差値だけは上がっていきます。

井沢 浪人生が減っているという現状もあります。一方で、不本意な大学に入ってしまい、仮面浪人も増えているようです。

後藤 仮面浪人にとってはやりやすくなっている。浪人生も予備校には通わず、N予備校やスタディサプリなどで勉強する。費用が月額数千円とかでべらぼうに安い。

―――それは予備校にとって由々しき事態ですね。