これから問われる有名大学院に入れる力
――圧倒的に多くを占める3層目の大学はどうなるのでしょう。
後藤 ある私大の英文学科に総合型選抜で合格した生徒が、入学式の前に大量の英文を渡されて、「これの5ページ分を毎回授業で扱うから読んでおくように」と言われたそうです。こうした事前教育をやらないといけなくなってきている。大学での授業のイメージがそもそもないというか、学ぶことができない生徒が大学に入学してきますからね。そんな状況では大学の授業は成立しません。いまや「学ばない生徒、学べない学生」の時代です。
大学も立ち止まって考える必要がある。第3層の受験生を受け入れる大学の多くでは、そもそも選抜機能が働かないのだから、受験生から選抜することを考えてはいけない。この層の生徒は、教科、分野によって、理解度にばらつきがあります。大学入学後に学ぶ内容に合わせて、ある一定の理解ができるようする。つまり入試を起点にして、その大学の教育にふさわしい状態に育てていくことが必要です。「選抜から育成へ」の変革を求められ「高大接続」の本来の意義を問われます。
――大学間格差もより顕著に表れそうですね。
後藤 大学の世界ランキングが毎年騒がれていますが、あれは研究業績を問う大学院が対象ですから。勝負する世界は変わっているものの、受験生も親も、その周辺の関係者も意識が以前のままで変わっていない。
南山大の話に戻すと、大学には「これからは学部の定員を減らすしかない、勝負は大学院進学」と伝えました。これまでのように同じ大学の大学院に進ませるだけでなく、研究実績があり知名度も高い他の大学院に進んで活躍してくれる卒業生をどれだけ出せるかを含めた勝負になります。
――文系ですと、かつては東大の新聞研で修士号を取る「学歴ロンダリング」が裏技でありました。
後藤 これからは、こうした“ロンダリング”が普通になっていく。別の競争が始まっている。あまり大きな声では言えないけれども、法科大学院ができた頃、関関同立のある大学は自前の法科大学院を設けたものの、成績優秀なトップの学生を早稲田の法科大学院に送り込んでいました。
井沢 司法試験に強いとされる大学からも、慶應義塾大や東大の法科大学院に進学するケースが目立ちますね。大学が行かせたこともあるかもしれませんが、学生もそれを望んだと思います。
後藤 特に私大の人文・社会科学系の学部は、人工知能の発達で卒業後に就く仕事がなくなっていきます。学部の定員を減らしていくことになり、相対的に理系の比重が増えていきます。その一方で、立命館アジア太平洋大学(APU)の国際学生(海外からの留学生)の動向を見ると、就職後にも大学院進学を狙っています。日本の企業ではまだまだ入社後に修士号を取得しても評価されないケースが多い。だから優秀な学生ほど外資系に流れていきます。
井沢 外資では修士号以上を持っていないと昇進できませんし。