出題傾向は「センター試験」、併願しやすい試験制度設計

 今年6月、東洋大学は「基礎学力テスト型」のサンプル問題を公表した。都内にある私立高校の元教員は、問題を一目見て思わずうなった。

「『良問』といわれていた『大学入試センター試験』と出題傾向がそっくり。センター試験と傾向が大きく変わった現行の『大学入学共通テスト』だと特別な対策が必要だが、センター試験なら受験指導のノウハウも確立していて、これまでの学校教育で十分に対応できる。独自性ではなく、普遍性を重視した内容だ。しかもセンター試験より少しだけ難度を下げた出題で、受験生が本番の『腕試し』として受けるテストとして抜群の設定になっている」

 年内に実施される従来の総合型選抜や学校推薦型選抜の場合、仮に不合格となって年明けに一般選抜を受験しようとしても、受験勉強をする時間はほとんど残っていない。一方、基礎学力テスト受験のために学習する内容は、そのまま一般選抜の受験勉強につながるため、高校の教員も受験を勧めやすい。

 大手予備校の入試情報担当者は、「基礎学力テスト型」のこんな点も指摘する。

「英語の試験に英検など外部試験のスコアが利用できる。他大学との併願も可能。合格発表は12月10日だが、入学手続きを2段階にし、最終手続きの期限を2月28日と遅めに設定しているため、他大学の合否を確認してから入学申込金を支払った残りの学費を納入できる。必要な場合は繰り上げ合格を行う――。どこを見ても『併願しやすい設計』だ。やはり東洋大学は入試のつくり方が上手すぎる」

 これまでも東洋大学の入試制度設計には定評があった。多くの私立大学が2月の一般選抜で受験生を集めることを定石としていたが、同大学では3月入試を「メイン」に募集定員を最大に設定。最後の最後まで受験機会を設けて志願者数を拡大していった。

 また、多くの競合大学が「門戸」を広げるべく2教科入試を展開していったのに対し、東洋大学では4教科・5教科入試を積極的に展開。国公立大学との併願者を増やすことに成功した。「最難関」ではない国公立大学の受験生にとって、MARCH(明治大学、青山学院大学、立教大学、中央大学、法政大学)レベルの私立大学となると、3教科に絞った入試を受験した場合、これらを「滑り止め」とすることは難しい。さまざまな教科をバランス良く勉強した国公立大学の受験生が併願しやすいのが、4教科・5教科入試というわけだ。

 さらに、文系学部で数学必須入試を導入。24年度入試では、入学後に高度な数学の知識を必要とする経済学部で、一般選抜による入学者の約76%が数学必須入試の合格者だった。門戸を広げて入学者数を確保することで大学の経営基盤を盤石にしつつも、「大学が欲しい優れた学生」を獲得することで教育・研究機関としての「格」を高めていく、この両立を図っている点が「上手すぎる」といわれるゆえんだろう。