早期に大学受験の意欲を高めておくべき3つの理由
高校1年生、2年生の早い段階でモチベーションを高めて大学受験勉強に向かうのが、受験対策をする上では理想といえます。その理由としては以下のような点が挙げられます。
①復習範囲を最小限にできる
大学受験の勉強を高校3年生からスタートすると、1、2年生の2年間で習ったことの復習から始める必要があります。それと並行して3年生で新たに習うことも学習しなければならないため、学校の勉強と受験勉強の両立が難しくなるおそれがあります。一方、たとえば2年生の夏に受験勉強を始めたら復習する範囲は1年半分、2年生の初めなら1年分、1年生の夏なら半年分というように、始める時期が早ければ早いほど復習範囲はより少なくて済みます。
②偏差値を上げやすい
模試の偏差値は、ライバルとの学力の差がどれだけあるのかを数値化したものです。受験勉強を始めている高校生がまだ少ない、模試の平均点が低い段階で努力して点数を上げれば、偏差値は飛躍的に向上します。その結果、「勉強を頑張れば成績が上がる」という実感を得ることができ、モチベーションも上がっていきます。逆に、皆が当たり前のように受験勉強をしている3年生の段階では、偏差値を上げることが難しくなります。
③受験までの勉強時間の総量を増やせる
私が参考書を分析したところ、3年生の時点で偏差値45の場合、私立上位大学といわれるMARCH(明治・青山学院・立教・法政)・関関同立(関西・関西学院・同志社・立教)に合格するには約1,200時間の勉強が必要になります。また1,000時間あれば、高校初級程度の学力からでも日東駒専(日本・東洋・駒澤・専修)・産近甲龍(京都産業・近畿・甲南・龍谷)と呼ばれる中堅レベルの大学に合格する学力を身につけることが可能です。
2年生の4月から受験勉強を始めるなら、毎日3時間、1年生の4月からなら毎日1.5時間勉強すれば3年生までに1000時間を確保できる計算になります。もちろん早期に勉強を開始し、1日当たりの勉強時間をもっと増やせば、さらにレベルの高い上位校や国公立大学等に合格できる可能性も高まります。
このように、早い段階から受験へのやる気を引き出すことは、その後の受験を有利に運ぶ上で重要になってきます。そして、まだ受験生になる実感が持てない子どもの受験意欲を高めるためには、目標設定が欠かせません。
「目標設定」で子どものやる気を確実に引き出す
これまで多くの高校生たちに接してきて強く実感していることは、確固たる目標、つまり志望大学や学部・学科がある子は、そうでない子に比べて成績の伸びが大きいということです。行きたい大学がある、大学に入って実現したいことがある子は、「絶対に叶えてみせる!」という強い気持ちがあるので、勉強のつらさや大変さを乗り越えていくことができます。目標の有無によって、受験勉強への身の入れ方が大きく変わってくることは間違いありません。
では、目標が定まっていない子どもに対しては、どのようにアプローチしていけばよいのか。そこで私が編み出した方法が、子どもの志向を4つの型のいずれかに当てはめながら、受験への意欲を高めていき、志望校を定めていくというものです。私が提唱している4つの型は、次の通りです。
・学問型
・プライド型
・年収型
順にそれぞれのタイプを詳しく見ていきましょう。
4つの志向型① 職業型
なりたい職業が明確になっているのが特徴
職業型は、将来なりたい職業をもとに「大学に入りたい」という気持ちを高めていくやり方です。まず「医師になりたい」「自分は絶対弁護士になる」などと、子どもにすでになりたい職業があるのならば、それを実現するためにはどのような大学・学部に入る必要があるのかを考えさせます。
ただ、日ごろ多くの高校生に接していると「特になりたい職業はない」という子のほうが多く、世の中にどのような仕事があるのかもあまり知らないように感じます。親や親戚など身近にいる人たちが就いている職業くらいしか思い浮かばない子がほとんどでしょう。
その場合、まずは「どのような職業があるのか」を教えることが必要になります。大学生が就職活動などの際に使う職業紹介本や就活用のサイトには、さまざまな仕事が紹介されています。そうしたものを見せながら、「この職業はどう?」などと、子どもの仕事に対する興味・関心の方向性を探っていくとよいでしょう。
たとえば、住宅関連の仕事に子どもが興味を抱いたような場合には、「それなら、住宅メーカーに勤めるという選択肢があるかも。住宅絡みの仕事といっても、設計や施工などいろいろあるみたいだよ」と、より具体的なイメージを持てるように、可能な限り話を掘り下げていくことが望ましいといえます。
資格試験の合格率が高い大学も選択肢に
もし、子どもが就きたいと思っている職業が一般企業ではなく、専門職や公務員の場合は、偏差値よりも国家試験の合格率や合格者数で大学を検討することができます。
たとえば一級建築士の試験(令和元年)での合格者数ランキングでは、1位:日本大学192人、2位:芝浦工業大学110人、3位:東京理科大学95人、4位:早稲田大学88人、5位:近畿大学66人と、偏差値のランキングとは異なる順位になります。
大学によって受験者数が異なるので単純に人数だけでは比較できませんが、この年の一級建築士の合格率は12.0%と狭き門であったにもかかわらず、日本大学は合格者数ナンバーワンとなり、一級建築士の試験に強い大学であることがわかります。
志望した大学に入ることが将来就きたい職業に有利に働くのであれば、その選択に反対する理由はないはずです。しかし、むしろ不利となる可能性があるのなら、やんわりと軌道修正を促す必要があります。
- 深く考えずに、イメージだけで職業を選んでしまう場合がある。
- 医療系などの専門性の強い学部に進む場合、進路変更が難しくなることがある。
- オープンキャンパスに行く。
- めざす職業の業界動向や一日の仕事を調べる。
- 実際にその職業に就いている人に話を聞く。
- 医療系、弁護士、税理士、公務員など、資格や試験が求められる専門職の場合には合格率の高い大学を調べる(大学のホームページ、資料請求等で確認)。
- 銀行員、工業系などの一般企業の場合には、書籍やインターネットなどを使って業界動向や主要企業名等を調べる。
- 実際の仕事の内容や給料などを調べる。
- 行きたい企業がある場合は、就職した卒業生が多い大学を調べる。
4つの志向型② 学問型
とことん追求したいことがあるのが特徴
学問型は「哲学に興味があるから文学部の哲学科に行きたい」「戦国時代がとても好きで、史学科に行きたい」「遺伝子の研究をしたいから○○大学の生物科学科をめざす」など、追求したい学問が明確にあるタイプです。小さいころから人一倍好きなことや趣味があったり、マスメディアの影響を大きく受けていたりすることも考えられます。
たとえば学習系のバラエティ番組などを見ていた子どもが「○○先生の恐竜の話がとても面白かった」などと関心を持ち、志望校選びの入り口となるケースがあります。ほかにもノーベル賞受賞などの学問関連のニュースに触れたことがきっかけとなることもあります。
このタイプの子どもは、「英語が好きで、英語が話せるようになりたい。だから留学できる国際学部や外国語学部に進みたい」「物理が好きだから理学部で勉強したい」というように、進学したい学部が固定されていくのが特徴です。
そのため、「早稲田なら何学部でもいい」とか「同志社なら何学部でもいい」など、どんな学部でもいいから少しでも偏差値の高い大学に行きたいという考えはあまり持っていません。工学部志望であれば、複数の大学の工学部だけを受験することになります。
学びたい学問を優先して大学を決めた場合、卒業後の進路として大学院に進み、最終的には学者や研究員としての道を選ぶケースが少なくないでしょう。また、博物館や美術館で学芸員として働くという選択肢も考えられます。
特に理系は学問型の傾向が強くあります。偏差値を重視して理系の学部を選んだ場合には、実験・研究が多いため、興味のない学問では大学生活が苦しくなることもあります。
逆に自分のやりたいことと学部が一致していれば、大学院へと進学する環境も高い水準で整っています。工学部の国立大学では旧帝大(北海道大学・東北大学・東京大学・名古屋大学・京都大学・大阪大学・九州大学)を中心に、大学院への進学率が80%を超えるところもあります。
軌道修正を促すことが必要な場合もある
このタイプは学びたいことが明確にあるものの、卒業後に就きたい職業まで想像ができていないケースもよくあります。「もっと偏差値の高い大学に入れるのに……」「仕事に結びつけるのが大変な学問だが、将来は大丈夫だろうか」と、親として物足りなさや不安を感じることもあるはずです。
なかには将来のことも考えて、学部を変更する子どももいますが、このタイプの受験生は究めたい学問が明確なだけに、一度決めるとひたすら突き進む傾向にあります。子どもが志望する大学に進学することが「将来役立つのか」「本当に正しい選択なのか」を親の立場で冷静に判断し、助言することが必要となります。
たとえば、子どもが歴史もののテレビ番組に出演しているA大学の日本史の教授のファンになり、「この先生のもとで日本史の勉強をしたい」という意向を持っていたとします。その場合、A大学史学科の卒業後の進路をまずは調べてみるとよいでしょう。卒業生の進路を見ながら、少しずつ現実的な面に目を向けていくことで、受験のその先を考えられるようになります。
また、同じ史学科でもほかの大学のほうが卒業後の進路指導に力を入れていたり、専門職としてのスキルを身につける上でメリットがあったりするのなら、情報を見比べながらA大学に限らず別の大学でも学べることを教え、史学科のある大学に絞って志望校を選ぶとよいでしょう。
子どもがアクセスできる情報にはどうしても偏りや限界が出てくるものです。保護者の視点から多角的に知識や情報を与えて、修正してあげることが必要です。
- やりたいことに突き進み、その先を考えていないおそれがあるため、大学卒業後について、親の立場で冷静に助言することが必要。
- 国際学部のような人気学部の場合、倍率や偏差値が高くなりがちで難易度が上がる。
- 自分がイメージしている学問と、大学での授業内容が異なることがある。
- 大学院進学も視野に入れて、大学のホームページを調べる。
- オープンキャンパスなどを利用して、学部の活動を体験してみる。
- 学びたい学問について詳しく調べる。
- その学問を学べる大学を、家庭環境も考慮に入れてリストアップする(国公立・私立、場所・地域など)。
4つの志向型③ プライド型
偏差値や名門大学にこだわっているのが特徴
プライド型は、「偏差値60以上の大学に行きたい」「頭がいいと思われたい」など、自分のプライドを満足させられるかどうかを基準に大学を選ぶタイプです。「周りの人に負けたくない」という意識が強くあるため、いつもライバル視している同級生や兄弟姉妹などと同等、もしくはそれよりも偏差値の高いランクの大学をめざすことが目標になってきます。
勉強のモチベーションを保ちやすい傾向
このプライド型の子どもは、自らの固定観念や自分の育ってきた環境によって志望大学が左右されることがあります。たとえば、当初は進学してもよいと思っていた大学であっても、友人が「この大学には行きたくないよね」「あの大学はレベルが低いよ」などと話しているのを耳にして、「あの大学には行きたくない、より上のレベルの大学をめざす」と、意地になって考えを変えてしまうことがあります。
プライド型の子どもは、「行きたくない」と考えているレベルの大学が明確になっているため、自分のプライドを守ろうとする気持ちから勉強に向かいやすく、受験勉強へのモチベーションが継続しやすい傾向にあります。
- 大学名に執着し、学部を気にしない。
- 偏差値を重視するため、あまり大学の内容を見ずに志望校を決める傾向にある。
- 入学後に目標を見失うおそれがある。
- モチベーション維持のために、志望大学に不合格になったらどうするかを想像させる。
- 大学ランキングを確認し、「この偏差値以上の大学に行きたい」というラインを明確にする。
- 家庭の環境に合わせて志望大学をリストアップする(国公立・私立、地域・場所など)。
- 合格後に大学での勉強に興味がなくならないように、早めに学部の内容を確認させる。
- 入学したら次の目標を早めに設定できるよう、職業に目を向けさせるようにする。
4つの志向型④ 年収型
高収入を得ることに憧れているのが特徴
年収型は、将来どれほどの年収を得たいのかが勉強を始める動機になるタイプです。この場合、○○万円以上の年収を得られる企業はどこか、職種は何かというように、理想とする年収を得られる企業や職業を知るところから始まります。その上で、そうした高年収の職に就きやすい大学はどこなのかと、理想とする年収をきっかけに受験へのモチベーションを高めていくのです。
もちろん、年収が人生のすべてというわけではありません。お金がなくても幸せな人もいれば、逆にお金があっても幸せを感じていない人もいます。同じように東京大学を出ても、いわゆるワーキングプアの状態に陥っている人はいるでしょうし、大卒でなくても上場企業の年収より多くの所得を得ている人も大勢います。
漠然としたイメージではなく、具体的な企業をチェックする
そうした現実が前提となりますが、高校生がなんとなく「大学に進学したい」と思うのは、「高卒よりもいい就職先に就けるだろう」「今よりも選択肢が広がるだろう」「大卒ならばきっと年収は高いだろう」というようなことを漠然とイメージしているからです。
ただ、その多くはまだ経験したことがないものばかりなので、どれも単純なイメージになりがちです。その点、お金は普段から自分でも使っているため、物事の価値を測る物差しになりやすく、企業や職業を比較検討する際に理解しやすいのです。
そのため、高年収の企業をもとに入りたい大学を決めて、モチベーションを上げていくことが重要となります。
- 大学名に執着し、学部を気にしない。
- 偏差値を重視するため、あまり大学の内容を見ずに志望校を決める傾向にある。
- 入学後に目標を見失うおそれがある。
- 興味のある企業の年収を調べる。
- 有名企業への就職率が高い大学を書籍やインターネットで調べる。
- 「〇〇大以上を狙う」というように、目標とする大学を決める。
それぞれの型の深掘り方法
実際に志望大学や学部・学科を決める際には、どのような方法で子どもの考えを深ぼるのがよいのでしょうか。4つの型ごとにみていきます。
①職業型の深掘り方法
「あなたにとって嫌な仕事は何?」などというように、あえて「やりたくない仕事」について、じっくりと考えさせてみましょう。消去法で考えていくことで、自分の興味のある仕事がおのずと見えてくるはずです。
②学問型の深掘り方法
まず学部学科の概要が書いてある大学のガイドブックやホームページなどを見て、自分が興味のある学部学科か、興味のない学部学科か、それ以外かの3つに大まかに分類します。その後、興味のない学部学科以外の詳細を見ていきます。
詳細を見ていくうちに知らなかった学問の内容を知り、興味を持ち始めることもあります。こうした作業を行って、なかでも特に行きたいと感じる学部・学科を絞り込んでいきます。
③プライド型の深掘り方法
子どもの高校の進学実績を参照しながら「合格者が一番多いのは○○大学、成績上位の子は××大学や△△大学に進んでいるみたい。同級生よりも偏差値が低いところでもいいの?」などというやりとりをしているうちに、自然と志望校のランクが上がっていき、「〇〇大以上を狙う」と目標が定まっていくでしょう。
④年収型の深掘り方法
「時給1,100円だとすると、週40時間働いても、月(4週間)160時間×1,100円の計算から17万6,000円しか収入が得られないけれどいいの?」「家は一軒家に住みたいの? 都会に住みたいの? 家賃は?」と年収が関わってくる将来の希望を尋ねるなどして現実的なイメージを与えていくと、「最低でも○○○万円ぐらいの年収は欲しい」という思いが生まれ、「そのためには○○レベルの大学に行かないと……」となるはずです。
特に③プライド型と④年収型は、私の経験上、このような掘り起こし方法が大変効果的でした。志望校がスムーズに決まることも珍しくありません。
どの型にも当てはまらないときの対処法
もちろん、すぐに全員が明確な目標を設定できるわけではありません。実際には、強い思いを持たずに消去法で選んだり、なんとなく決めたりすることもあります。そのようなときは、将来について考えることを続けながらも、まずは目の前の勉強に取り組むことが必要です。
志望校が決まらないからといって悲観する必要はありません。むしろ、それは選択の幅を広げるチャンスだと捉えてほしいと思います。高校生は日常生活の多くを勉強に費やしているため、勉強を進める中で視野が広がり、考え方も変わっていくものです。例えば、苦手だった教科を勉強するうちに、その内容に興味を持つこともあるでしょう。私自身も、苦手だった英語を学んでいくうちに興味が湧き、楽しさを感じるようになり、その結果、英語系の学部に進学しました。
また、すべての可能性を残しておくのではなく、将来を見据えたうえで、ある程度方向性を定めて目の前の勉強を始めることが大切です。例えば、「英語は配点が高いから時間を多く割こう」「数学は今後必要になるから得意にしておこう」などの大まかな指針を立てることが重要です。勉強時間を均等に割り振るのではなく、やることの比重を変え、なにかに集中させることで、より成果を出しやすくなります。目の前の勉強で「できる」という実感を得ながら、将来についても引き続き考えていきましょう。
まとめ|子どもとたくさん会話をしよう
大学受験の目標設定といっても、それぞれどのように考えているかは子どもによって様々です。どのパターンでもしっかりと子どもと向き合い、たくさん会話をすることが重要です。会話の中で見えてきた思考の傾向から、どのように関わっていくかを決めていきましょう。