中学受験熱の高まりと出願校数の増加

 2024年度入試の首都圏の受験者数(首都圏模試センター推定)は5万2,400人と、前年の5万2,600人から微減しましたが、公立小学校卒業生数を分母とした中学受験率は18.12%と過去最高になったことをご存じの方も多いでしょう。以下は首都圏模試センターが発表した受験生1人あたりの出願校(回)数です。新型コロナウイルス感染症の影響が大きかった2021年度入試は低下しているものの増加傾向にあり、2024年度の受験生1人あたりの平均出願校(回)数は7.19と、7回を超えました。

一人あたりの平均出願校数
首都圏模試センター発表資料をもとに東京個別指導学院が作成(男女計の平均)

 東京都・神奈川県の私立中学校入試では2月1日が入試解禁日(帰国生入試を除く)で、ほとんどの入試が2月3日までに集中します。午前入試と午後入試を3日間受験し続けても6回ですので、入試解禁日が1月の埼玉県・千葉県の学校や、寮のある首都圏以外の学校にも出願するのが一般的になっています。このデータからも、第一志望校以外にも複数の学校を受験して、進学先を確保しようとする受験生が増加していると考えられます。

 首都圏中学受験の盛り上がりから、ひと昔前は小学4年生から受験勉強をスタートするのが一般的でしたが、近年では1年生や2年生からの受験塾通いも珍しくありません。受験生本人にとっては「せっかく今まで受験勉強してきたのだから、合格できる中高一貫校も受けておきたい」「合格したい」思いがあるでしょうし、受験生に伴走してきた保護者としても「合格という成功体験をわが子に積ませたい」「何としても合格できる学校も受けさせたい」という思いもあるでしょう。

受験者数が増えているのは「中堅校」

 表は2023年度入試と比較して、受験者数増や増加率が高かった都内私立中学です。晶文社『首都圏 中学受験案内 2025年度用』で各校ページの右上に記載された偏差値を使用しています。Sは首都圏模試「ほぼ確実」偏差値、Yは四谷大塚「ほぼ確実」偏差値です。赤い文字は、首都圏模試の「ほぼ確実」偏差値がおおむね70以上、四谷大塚の「ほぼ確実」偏差値が60以上の難関校ですが、わずか7校にとどまっています。

 受験者数が増えているのは圧倒的に「中堅校」ということになります。

東京都私立中学校受験者数増加校(前年比較)2024年2月11日現在の集計

男子校
女子校
共学校※首都圏模試センター「首都圏の2024年中学受験状況について」(2024年3月14日開催・塾対象中学受験春季オンラインセミナー)の資料をもとに東京個別指導学院が作成

 前述したように少子化の影響もあり、私立中学校は生き残りをかけて、学校改革や新しい教育の導入を進めています。さらに、施設面を充実させたり、その学校独自の体験プログラムをブラッシュアップさせたりして魅力度を高めています。中には他の学校にはない教育により、オンリーワンの魅力を打ち出す学校も出てきました。

 その結果、「誰でも知っている有名難関校以外にも魅力的な学校があるじゃないか」「この学校ならば、わが子が個性を発揮して伸び伸び頑張れそう」と、偏差値以外の観点で学校を選ぶ保護者が増えてきているように思います。

 また、「中堅校」の魅力を知った受験生・保護者の中には、最初から「中堅校」を第一志望とする方も増えてきているように思います。例えば、小学5年生や6年生から中学受験対策を始めた方が入試までの残り期間を考慮して「中堅校」を選ぶ、受験生自身のやりたいこと(運動や音楽など)を継続しながら受験対策をする方が「中堅校」を選ぶ、というようにです。

「中堅校」の受験校選び4つのポイント

 今回は、このように注目を集める「中堅校」について、受験校選びにおけるポイントを4つ指摘したいと思います。

⚫︎「中堅校」の受験校選び4つのポイント⚫︎

➀「難関大学に合格者多数」の評判を見極める
➁入試難易度が短期間で変わる可能性がある
➂「個性重視型入試」のみの受験はやめよう
➃「わが子に合っていて良い学校」を選ぶために10校は見学する

➀「難関大学に合格者多数」の評判を見極める

 中学入試での偏差値が高くなくとも、旧帝国大学や難関私立大学に多くの合格者を出す学校がある、という記事を見かけます。ここで、注意点があります。難関校や準難関校の多くでは、一部教科で習熟度別授業を行うことがあっても、入学者は基本的に同じ内容を学びます。一方、「中堅校」では特別クラスや選抜コースを設ける学校が多いのです。首都圏模試合格可能性80%偏差値(以下同様)が10以上異なるクラス(コース)のある学校も存在します。

 例えば、郁文館中学校の2024年度「第1回・総合入試」の偏差値は47でしたが、「第1回iP class選抜入試」の偏差値は61と、14ポイントも異なります。同じ学校でも生徒の学力差が大きいこともあるのが「中堅校」の特徴です*¹。

*¹ 出典: 首都圏模試センター「2024年 中学入試結果偏差値一覧(合格率80%・50%)

 同じ学校でありながら、使用教材、授業進度や授業内容が異なることも少なくありません。入試の成績でクラス分けをする学校もあれば、入試時にクラス(コース)別に募集する学校もあります。クラスの入れ替えを毎年する学校もあれば、6年間入れ替えがない特別クラスを設けている学校もあります。一般クラスよりも入学難易度の高い特別クラスがあり、難関大学の合格実績は特別クラスの生徒が占めている学校もありますので、注意が必要です。

 また、学校によっては「〇〇コースの生徒は大学受験の際に指定校推薦に応募できない」といった制限を設けている場合もあります。クラスやコース別の進路実績や合格実績を自校HPで公開している学校もありますが、少数派のように思います。気になる場合は、学校説明会等で問い合わせてみるとよいでしょう。

⚫︎学校説明会でチェックしよう⚫︎

・クラス・コース別の合格実績は?

・クラス・コースによって受けられる大学入試形態の制限はあるか

・クラス・コースの入れ替えはあるか

・クラス・コースによって部活動等に制約があるか

➁入試難易度が短期間で変わる可能性がある

 難関校や準難関校の入試難易度は、基本的に微増・微減のみで大きな動きがありません。これらの学校は、志願者数の増減があったとしても、「あわよくば合格」を願う受験者数の増減によることが多く、合格するための難易度は急激には変わらないことが多いのです。以下は東京都の御三家と呼ばれる中学校6校(開成中、麻布中、武蔵中、桜蔭中、女子学院中、雙葉中)の入試難易度推移です。

合格可能性80%偏差値の推移
※首都圏模試センター「2019~2024年 中学入試結果偏差値一覧(合格率80%・50%)」(2019年2020年2021年2022年2023年2024年)をもとに東京個別指導学院が作成

「中堅校」の場合は劇的な学校改革を行ったり、教育内容に特色を打ち出したりすることにより、受験生・保護者の注目と人気が集まり、難易度が短期間で上がることがあります。

 2015年度から、戸板中学校が三田国際中学校と改称して共学化しました。2014年度の偏差値は39でしたが、共学化初年度の2015年度は48に上昇。2016年度も勢いは止まらず59、2017年度は63と、共学化初年度からの3年間だけで15ポイントも偏差値を上げました。2019年に開校したドルトン東京学園は、初年度の偏差値は43でしたが、翌年度には50、2021年度には56と、年度ごとに6~7ポイントの偏差値アップが見られました。

 下図のように、東京都内と神奈川県内の私立中学において、6年間で偏差値が10ポイント以上アップした学校も少なくありません。

合格可能性80%偏差値の推移
※首都圏模試センター「2019~2024年 中学入試結果偏差値一覧(合格率80%・50%)」(2019年2020年2021年2022年2023年2024年)をもとに東京個別指導学院が作成。共学校は女子の偏差値を採用している

 三輪田学園中学校、サレジアン国際学園世田谷中学校、横浜創英中学校などは2023年度から2024年度にかけて偏差値が4~5ポイントも上がっています。いずれもメディアに取り上げられるなど、注目が集まっている学校です。

偏差値の推移※首都圏模試センター「2022~2024年 中学入試結果偏差値一覧(合格率80%・50%)」(2022年2023年2024年)をもとに東京個別指導学院が作成

 2025年度入試でも人気(難易度)上昇が見込まれる学校がありますので、注意が必要です。

・現6年生は大幅な難易度変動の可能性は少ないが、特に9月以降の模擬試験等で志願者数や志望者平均偏差値の推移もチェックしよう
・現5年生以下で注目校とされている学校も視野に入れている場合は、急激な難易度アップに備えて学力もできるだけ上げておこう

➂「個性重視型入試」のみの受験はやめよう

 教科以外の入試である「個性重視型入試」を実施する学校が多いのも「中堅校」の特徴です。難関校や準難関校では従来通り教科筆記試験の入試を実施していますが、「中堅校」では建学の精神や育てたい生徒像から「どんな入学者を迎え入れたいのか」にこだわって、「個性重視型入試」を実施しています。

 本コラムでの「個性重視型入試」とは、算数1科入試や英語1科入試などの教科入試を含めず、1~4科入試や適性検査型入試以外の入試を指します。例としては「プログラミング入試」「プレゼンテーション型入試」「ブロックを使って思考力を問う入試」などを指します。

 例えば、宝仙学園順天堂大学系属 理数インター中学校では、2科・2科入試や適性検査型入試の他に「リベラルアーツ入試」「AAA(世界標準)入試」「グローバル入試」「読書プレゼン入試」「オピニオン入試」「アクティブラーニング型入試『理数インター』」「英語AL入試」など、多くの入試方式から少人数ずつ募集して、多様な持ち味のある生徒を入学させようとしています*²。

*² 出典: 宝仙学園順天堂大学系属 理数インター中学校

 ところが、何らかの事情により「個性重視型入試」を突然とりやめる学校もあります。大妻嵐山中学校は、Scratchを使ってプログラミング課題に取り組み発表する「プログラミング入試」の実施を2022年度からとりやめています。藤村女子中学校は、2021年度から「謎検型」や「脱出ゲーム型」の試験に挑戦する様子から、さまざまな資質を評価する「ナゾ解き入試」を始めましたが、2024年度では同入試を実施していません。

「〇〇中学に合格するためには△△型入試でのみ受験すればよい」という考え方でいると、わが子が受験する年度で△△型入試が実施されない場合、途方に暮れることになります。「個性重視型入試」の過去問題をあえて発表しない学校もあるので注意が必要です。入試要項が出そろうのは9月頃ですから、「秋になって初めて知って、受験計画を練り直し」ということにもなりかねません。

 教育内容や校風が気に入って選んだ学校に対しては、募集人数の多い(≒一般的には合格者を多く発表する)入試方式での受験準備をしておくことをお勧めします。そのうえで、志望校に挑戦する受験機会を増やす意味でも、わが子の強みを活かせそうな「個性重視型入試」があれば受験する、と考えたほうがよいのではないかと思います。教科入試対策の勉強でつけた学力は、中学入学後の学力にもつながります。

 女子美術大学付属中学校は2月1日・3日に教科試験での入試、2日に「女子美 自己表現入試」を行っています。過去問題・解答用紙は非公開で、対策されないように出題の仕方を毎年変えるという入試です。個性的な教育を行っていて第一志望率の高い学校なのですが、2024年度入試では「女子美 自己表現入試」受験者112名のうち、この入試のみの受験者はわずかに4名で、108名は同校の教科入試との併願者だったそうです*³。

*³ 女子美術大学付属中学校「2024年度中学校生徒募集案内

・「個性重視型入試」は対策を立てにくい
・入試の実施自体がとりやめになるリスクもある
・「個性重視型入試」があるから受験するのではなく、「個性重視型入試」も活用して受験しよう

➃「わが子に合っていて良い学校」を選ぶために10校は見学する

 東京都や神奈川県の中学受験生の多くが第一志望校として臨む2月1日午前入試の合格率は、首都圏模試センターによると2024年度入試では45.7%となり、過半数の受験生にとって不本意な結果となりました。入試日が2日午前→3日午前→4日以降では、39.0%→28.3%→22.8%とさらに厳しくなります。このような入試環境なのですから、「中堅校」の学校選びでも「〇〇中学以外にわが子に合う学校はひとつもない」という決めつけはせず、少なくとも10校は見学し、上記➀~➂について確認したうえで受験候補校を選んでほしいと思います。

 中学受験が終わっても学びが終わるわけではありません。入学した学校が第一志望校ではなかったとしても、気持ちを切り替えたり折り合いをつけたりして、「ご縁」のあった学校でどれだけ充実した中学・高校生活を送れるかのほうが重要ではないでしょうか。「中堅校」の場合は、同じ学校内でも学力差が大きいと先に述べました。「中堅校」で伸びていくかどうかは、入学後の子どもの気持ちの持ちようによって変わってきます。

 これは保護者にもいえます。結果を受け止め、気持ちの整理と切り替えをどれだけ早い段階でできるかが、子どもの気持ちのありようにも大きく影響すると思います。ここまで触れた通り、実際の出願校の平均数(回)は7.19です。また、「中堅校」は難易度の変動が大きかったり、「個性重視型入試」などの入試方式の新設・廃止などの変動があったりします。「それぞれの出願校がわが子に合っていて良い学校」だと、保護者が心から思えるような学校選びができることが理想です。

・10校は見学しよう
・「わが子に合っていて良い学校」だと、保護者が心から思える学校を見つけよう

まとめ

 私立中学校の数は多く、各校の教育内容や入試形式も年々変化しています。わが子に合った学校を、保護者だけで探し出すのはなかなか難しいものです。そのような悩みをお持ちの受験生・保護者は、信頼できる塾の先生に相談してみるとよいでしょう。