東京都立高校の定員割れは前年並み……定員割れは下げ止まったのか?

 「都立そっくりもぎ(Vもぎ)」を運営する株式会社 進学研究会提供によるデータを見てみますと、2024年度入試では、東京都立全日制高校の25.4%が定員割れしています。これは前年と同じ比率であり、2022年度の29.3%をピークに3.9ポイント減少しています。都立高校の定員割れは下げ止まったのでしょうか?

都立全日制高校の定員割れ校数と割合

都立全日制高校の定員割れ校数と割合

※株式会社 進学研究会提供のデータをもとに東京個別指導学院が作成。
定員割れ校数は一般最終応募時のものです

 実は、この数字にはカラクリがあります。東京都の場合、都と私立高校側との協議(公私連絡協議会)の上で、都立と私立の募集人員を毎年決めているのですが、2021年以降の公立中学校3年生(卒業見込み数)は増加傾向にもかかわらず、公立中学校3年生数に占める都立全日制募集人員の割合を減らしています。特に、2023年度から2024年度にかけては、公立中学校3年生が416人増加したにもかかわらず、都立全日制高校の募集人員を395人も削減しているのです。

 もし、公立中学校3年生の増加数に応じて、2023年度並みの募集定員率(52.8%)の募集をしていれば、2023年度よりも615人の募集定員増となり、定員割れした都立高校の割合はもっと増えていた可能性があります。

東京都公立中学3年生在籍人数と都立全日制高等学校募集定員
※株式会社 進学研究会提供のデータをもとに東京個別指導学院が作成

 2025年度入試では、都内公立中学3年生が昨年よりも206人減少、高校進学者200人減少と予想されています。そんな中、都立高校全日制課程の募集数を320人削減する発表が東京都教育委員会からありました※。つまり、高校受験生減少分よりも多く、都立高校全日制課程の募集人員を減らすことになります。こうなると志願倍率は低下しにくくなり、定員割れ校数の割合も増加しにくくなると言えるでしょう。

※「令和7年度東京都立高等学校等の第一学年生徒の募集人員等について

東京都は所得制限の見直し発表のタイミングも影響

 東京都は「私立高等学校等授業料軽減助成金事業」における所得制限を2024年度から撤廃しました。2023年度まであった「世帯年収910万円の所得制限※」がなくなったことで、2024年度からすべての都内在住者に高校授業料が助成されることになります。2024年度は「国の就学支援金と都の授業料軽減助成金を合わせた48万4,000円までの授業料(年間)」が助成され、48万4,000円を超える場合は差額を生徒側が負担します(ただし、授業料のほかにも様々な費用がかかります)。

公益財団法人 東京都私学財団

 この制度は、都内在住者であれば、都外の私立高校にも適用されます。例えば、神奈川県にある慶應義塾高校の年間授業料は77万円ですが、都内在住の生徒の場合、年間授業料は差額の28万6,000円になります。もし子どもが通う高校が都内にあったとしても、埼玉県、千葉県、神奈川県などに在住の生徒であれば、都の「私立高等学校等授業料軽減助成金事業」の対象とはなりません。上記3県にも支援制度はありますが、対象は自県に所在する私立高校なのです。

 共働き家庭が増えた現在では、「世帯年収910万円の所得制限」の撤廃で新たに助成対象となる家庭は決して少なくありません。それにもかかわらず、東京都の「私立シフト」が大阪府ほど劇的に進まなかったのは、「発表の時期」も影響したのではないかと考えています。

 高校授業料を完全無償化する素案を大阪府が発表したのは2023年8月でした。高校受験生にとっては、夏休みや秋の学校説明会で受験校を検討する時間的な余裕がありました。それに対して、東京都知事が次年度からの所得制限撤廃を記者会見で発表したのは2023年12月5日でした。この時期では、担任の先生と生徒・保護者による三者面談がすでに終了し、受験校や志望順位が決定していた中学生は少なくなかったと思われます。この点も、大阪府よりも私立志向が急激に進まなかった原因のひとつと考えています。

東京都でも都立志向は低下している

 東京都立高等学校入学者選抜には、大まかには「➀推薦に基づく選抜」と「➁学力検査に基づく選抜、いわゆる一般入試」があります。➀で合格した場合は、辞退せずそのまま入学となります。➁には、➀の不合格者や➁のみ受験する受験生もいます。

「➀推薦に基づく選抜」での合格者と「➁一般入試」の受験者数の和を、都内公立中学3年生の在籍数で割った数値を「都立志向率」といい、これが公立中3生の何%が都立高校に入学したいかを示す数値となります。この都立志向率の推移を見てみると、以下のようになります。

都立志向率
※株式会社 進学研究会提供のデータをもとに東京個別指導学院が作成

 都立志向率は社会情勢の影響を大きく受けます。東京都では「私立高等学校等授業料軽減助成金事業」を大きく拡充したことを受け、2018年度入試の都立志向率は70.0%から67.2%と2.8ポイントも減少しました。大阪府内私立高校の専願率は、2023年度の28.65%から2024年度の31.64%へと2.99ポイント増加していますが、これは東京都の2.8ポイントと近い数字だと思います。

 新型コロナウイルス感染症の流行で休校や試験範囲の削減などがあった2021年度入試では、受験生家庭の「早めに進学先を決めたい」というマインドや、私立高校の対応の早さや柔軟さへの評価などが反映され、都立志向率は1.7ポイント低下しました。

 経済的な面を主な理由として都立高校と考えていた家庭の一部が、就学支援制度の拡充により、私立高校を進学先のメインに考えるようになった動きの表れではないでしょうか。

 もし仮に小池都知事の発表が12月ではなく、大阪府と同時期の8月であれば、2024年度の都立志向率はもっと下がっていたのではないかと個人的には見ています。東京私立中学高校協会会長の近藤彰郎会長は、「学費の壁がなければ、生徒や保護者は教育の中身を重視して学校を選ぶだろう」と話されました。教育の内容をアップデートしている学校ほど選ばれるはずだと、私立高校の先生方は思っていることでしょう。

東京都内の子どもも減っていく

令和5年度 教育人口等推計報告書」によると、都内公立中学校3年生の生徒数は、2029年度まではおおむね横ばい・微増傾向で推移しますが、2030年度以降は大きく減少に転じる見込みとなっています。神奈川県、埼玉県、千葉県、愛知県、京都府、大阪府、兵庫県などの大都市を抱える府県では、公立高校の統廃合計画が進んでいます。東京都も2030年度以降の減少が確実ですから、いずれ本格的に都立高校の統廃合計画を策定するのではないでしょうか。

都立公立中学校3年生生徒数推移
※「令和5年度 教育人口等推計報告書」(東京都教育委員会)をもとに東京個別指導学院が作成。出典元資料や資料作成時期により各年度の人数が異なる

 あくまでも個人的な見解ですが、東京都や大阪府といった私立高校が多く設置されている都道府県では、「長期的には公立高校を大幅に減らし、私立高校に通う生徒を増やしたい」という民間委託の割合増の意図があるのではないかと思っています。東京都の場合、2036年度には現在よりも約1万3,000人の公立中学3年生が減るのです。とても現在の学校数を維持できないでしょう。

 東京都側でも入試教科数の各校での設定、学力検査点と調査書点比率の変更など、都立高校を受験しやすくする制度変更の内部検討が行われています。私立高校の場合は他県からも生徒を集めることができますが、都立高校は現時点では原則として都内在住者から生徒を募集しなければならないのです。さらに、通信制高校という新たなライバルも増加しています。

 少子化の中、定員割れしている公立高校を何校も維持・管理していくのは、財政的に限界があると思います。さらに、定員割れが著しいと、1クラスに在籍する生徒の学力差が拡大する問題や、部活動を維持できない(例えばサッカー部に11人集まらない)といった問題が出てきます。

 東京都は2018年度、当時の都内私立高校授業料の平均額である44万9,000円まで支援する対象を「年収760万円未満の世帯」まで引き上げ、当時は大きく報道されました。それが2024年には所得制限を撤廃したのですから、わずか6年間で急速に私立高校生への就学支援を拡充したことになります。都立高校を将来的には減らしていこうという動きではないかと、私自身は勘繰ってしまいます。

東京の私立高校の人気は高まっているが、強い危機感

 私立高校の動きも見てみましょう。東京都内の私立高校入試での歩留まり率(合格者の何%が入学したか)は、都立志向率の低下に呼応して上昇しています。両数値の10年間の相関係数は−0.93と極めて強い負の相関があり、私立高校の人気が高まっていることがわかります。

都立志向率と都内私立高歩留まり率
※都立志向率は株式会社 進学研究会提供のデータ、都内私立高校の歩留まり率は日本私立学校振興・共済事業団「私立高等学校入学志願動向」(平成27年度~令和5年度)をもとに東京個別指導学院が作成。「令和6(2024)年度 私立高等学校入学志願動向」は2025年1月発行予定のため、2024年度の歩留まり率は空欄

 私立高校関係者に話を伺うと、2030年頃から迎える都内公立中学3年生の急速な減少に、強い危機感を抱いています。人気が高い私立高校の校長先生方も安穏としてはいません。教育の個性化や充実化を次々と、しかも急速に進めています。

 例として、ダブルディプロマ(日本と海外の2つの高校卒業資格が得られる)コースを設ける、1年間の留学を必須にする、STEAM教育に力を入れる、理科は毎時間実験・観察を取り入れる、PBL型授業をメインとする、プログラミングやデータサイエンスを深く学べる、他教科を英語で学ぶイマージョン教育を取り入れる、探究活動に力を入れる、といった多様な取り組みが進められています。

まとめ|保護者のすべきこと

 教育の成果とはすべてが一朝一夕に現れるものではありません。高校に入学する生徒が卒業する3年後、中高一貫校に入学した生徒が卒業する6年後に、どのように成長させて大学に送り出せるか、毎年毎年の卒業生一人ひとりが学校の評判につながっていくと思います。

 子どもの現在の学年によっては、中3生が増加して厳しい入試になることになりますし、小学校入学前の子どもがいる家庭では、急速な少子化の中で統廃合する学校も出てくるでしょう。しかし、入試自体はおおむね緩和されるでしょう。

 とはいえ、入りやすいからといって「どんな高校でもよい」というわけにはいきません。子どもが生き生きと高校生活を過ごせるように、子どもと学校とのマッチングがますます重要になってきます。一昔前のように「どこの高校に入学しても学ぶことはほとんど同じで、偏差値が違うだけ」ではなくなってきており、その傾向はますます強まるでしょう。

 ですから、「わが子に合った高校を選ぶこと」がますます重要になります。入試制度も変わっていきますし、現時点でも東京都は新たな検討を進めていますので、保護者は入試変更に関するニュースには敏感になっておくことをお勧めします。

 近年、特に私立の場合、学校見学会や説明会を受験学年限定としている学校は極めて少なくなりました。今、学校ではどのようなことが行われているのかを、実際に学校に足を運んで何校も見学することを強くお勧めします。今学んでいる生徒たちが、未来の学校の評判をつくるのです。在籍している生徒たちの学びに向かう姿勢や学びの内容を見ておくと、数多くの気づきが得られます。

「高校受験なんてまだ先のことだから、もっと後でよい」と考えず、まず都立と私立それぞれ1校からでも見学してみてはいかがでしょうか。