2022年度の高校入学生から、全員がデータサイエンスを学んでいる

 2022年度の新高校1年生から、改訂後の高等学校学習指導要領が段階的に実施されています。「情報Ⅰ」が必履修科目になったほか、激しい社会変化の中でも柔軟に対応できるよう、「総合的な探究の時間」が導入されました。

「情報Ⅰ」はプログラミングやデータサイエンスなどを高校段階で全員に学んでもらうために、新たな必履修科目として導入され、発展した内容の「情報Ⅱ」も新設されました。2025年度大学入学共通テストから「情報Ⅰ」が出題教科に加わったことをご存じの方も少なくないでしょう。

「探究」とは、教科の垣根を越えた横断的な学習のことです。生徒が自分らしさや将来の生き方について、自らテーマや課題を設定し、その目標に対して、他者と共に試行錯誤しながら能力や知識を養います。そのプロセスは、データサイエンスのプロセスと類似しています。

「探究」の中でもデータによる説得力を持った分析・提案を行う必要があるので、データサイエンスの手法が必要とされることにも納得がいきます。

探究
※出典: 【左図】文部科学省「高等学校学習指導要領(平成30年告示)」、【右図】東京個別指導学院が作成。

データサイエンスを学ぶ上で「情報」と「数学」は必須

情報Ⅰ・Ⅱの科目一覧

 高校の学習指導要領では、「情報Ⅰ」は大きく分けて4つの項目で構成されています。データサイエンスは「(4)情報通信ネットワークとデータの活用」の中でデータベースを扱い、データを収集・整理・分析する方法を学びます。

「情報Ⅱ」は大きく分けて5つの項目から構成されていて、データサイエンスに関しては「(3)情報とデータサイエンス」で学びます。「情報Ⅰ」ではデータサイエンスに簡単なプログラミングを活用するのにとどまりますが、「情報Ⅱ」では高度なプログラミング等まで行い、データサイエンスの学びを深めます。

 新教科「情報」でのデータサイエンスは、「数学」のデータの分析の分野と内容の重複が見られます。「情報Ⅰ」と「数学Ⅰ」、「情報Ⅱ」と「数学B」では一部の学習内容に重複があり、同じ内容を異なるアプローチで学習して、連携したり相互に補完的したりしている部分も見受けられます。

 例えば「数学Ⅰ」では相関係数や散布図を、数学的なアプローチにより計算させることに重点を置いていますが、「情報Ⅰ」ではその読み取り方や解釈を重視して学びます。こうして見ていくと、「総合的な探究」「情報」「数学」の各科の知識や技能を関連させながら学んでいくのだということがおわかりいただけると思います。

2022年度に公立高校で「数理・データサイエンス学科」が誕生

 札幌市立旭丘高校に「数理データサイエンス学科*」が開設されたのは、現行の学習指導要領での学びが新高校入学生から段階的に始まった2022年4月のことです。おそらく、高校では日本初となるデータサイエンスの学科です。

*理数と情報に関するその他専門学科であり、普通科ではありません。

 翌2023年度にはSSH(スーパーサイエンスハイスクール)に指定されました。SSHでは、高校等で先進的な理数教育を実施するとともに、高大接続の在り方について大学との共同研究や、国際性を育むための取り組みを推進します。また創造性、独創性を高める指導方法、教材の開発等の取り組みを実施します。

 このため、旭丘高校には高校における数理データサイエンス教育のモデル授業を開発・実践するミッションがあると考えられます。もちろんSSHとして、探究活動に必要な設備の充実や、研究開発機関や第一線の研究者との交流機会、全国的な成果発表の場などを同校は得ています。

「数理データサイエンス学科」の1年生は、数学Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ・A・B・Cを横断的に学ぶ「理数数学」、統計の知識や技能を課題分析や課題考察に応用する「SS統計学」、「理数物理」「理数化学」「理数生物」の3科目を同時に学ぶなど、意欲的な教育課程になっています。

 データサイエンスでは、1年生はオープンデータを活用して情報収集・分析・考察・発表する「SDS基礎」において、「クマの出没場所と天候」などをテーマに扱いました。2年生では本格的な「SDS探究」として、北海道のゴキブリの研究やIoT雪質観測機の製作など、北海道ならではの探究活動を行いました。この2つの探究について、2024年9月に実施された同校での学校説明会で生徒から発表がありました。

 また、学校独自の「サイエンスアカデミー」という、データサイエンス・AI・ITを活用した先端分野に触れ、諸課題に関する現場体験も用意されています。2024年度に実施された「サイエンスアカデミー」では、プロ野球チーム・日本ハムファイターズのエスコンフィールドに足を運び、プロ野球のデータアナリストにデータの分析・活用法を学ぶ活動も行っています。

 旭丘高校のコース責任者である坂庭康仁先生は、「科学技術者を志す人材、先端IT人材、次世代リーダーを育てたい。だから数学や理科が大好きで科学者・研究者になりたい生徒や、AI・IT・プログラミングに興味があるような生徒に入学してほしい」と話します。同校の「数理データサイエンス学科」の2025年度一般入学試験の配点は、数学と理科は得点を2倍、英語を1.5倍に換算しており、理科や数学に強い生徒を集めようとしている意図が明確に感じられます。

 この学科の第一期生が2024年度の高校3年生であるため、まだ大学合格実績は出ていませんが、学年の80人中27人が探究成果を活かして、学校推薦型・総合型選抜に挑戦予定であると学校説明会で紹介されました。個人的な印象ですが、将来、多数のデータサイエンティストを輩出するような高校になるのではないかと感じています。

2024年度、私立高校で「データサイエンスコース」が誕生

 次に、首都圏の私立高校で最初に「データサイエンスコース」を設置した聖徳学園高校(2024年4月~)を見てみましょう。同校の「データサイエンスコース」は文部科学省が認定する教育課程特例校の一つで、普通科です。「文理融合・探究型プログラム」と「国際バカロレア(IB)型英語イマージョン教育*¹」に特色があります。

 リベラルアーツを重視する国際バカロレア(IB)教育の手法を応用して、一部教科を英語イマージョン(データサイエンス探究も含む)で行っています。実際、英語を母国語としない生徒を対象とした「国際バカロレア(IB)資格対応教科書」を使って授業が行われていました。IBの教科書で扱う関数電卓を、聖徳学園高校でも使用しています。

聖徳学園高校_IB教科書を用いた授業風景
※IB教科書を用いた活気のある授業風景。生徒の希望で、6人並んで授業を受けるようにしたとのこと(聖徳学園高校より撮影許諾を得ています)。

 データサイエンス(数学・統計学・情報学)やリベラルアーツ(分理融合・企業や大学との連携)、グローバル(多様性・言語活動)により、プログラミング、データエンジニアリング、AI、教科横断学習、学校外実習、海外研修、イマージョン教育、英語力向上を通して、新たな価値を生み出す力をつけていくのが狙いとのこと。

 Python、Wolframなどのプログラミング言語や、統計解析ソフトSPSSを使った授業もありますが、文理融合の探究型プログラムが中心です。数値・文字だけではなく、画像・音声といったデータも使って、「見えないものを見えるようにしていく」ことで学びを深めようとしています。聖徳学園高校では、データサイエンスはこれからの人たちに必要な「素養」だと位置づけており、高校生の段階から身につけ、高めていくことを狙いにしているのです。

 経験上、生徒はつまらなくなってくると、公式だけ覚える、解くだけ、点数を取るだけになりがちです。しかし、探究型の学習になると、生徒の様子は変わってきます。「単に知識や公式を覚えるのではなく、それは何に利用できるのかを理解しながら学んでいく。教科横断的に学習することで、なぜそのデータが必要なのか、何に使えるのか、どういう時にどんなデータを使うのかに気づき、探究学習の中だと自然に身につくようになる」と、国際バカロレア教員でもあるデータサイエンス部長のドゥラゴ英理花先生は言います。

「PPDACサイクル~統計的課題解決サイクル」での学びは「歴史総合」の授業でも行われ、このような歴史になったのはどうしてなのか、データから根拠を見つけてみようといったアプローチがなされます。

PPDACサイクル
※出典: 総務省統計局「なるほど統計学園」上級「12 問題の解決

 ドゥラゴ先生曰く「統計・数列(数学B)・組み合わせ(数学A)・確率(数学A・B)もデータサイエンスと併せて勉強するほうがわかりやすい」とのこと。それも一理あるのですが、日本の学習指導要領ではこれらの単元は別々に学び、入試でも違う科目になります。ですから、校長の伊藤正徳先生は「(データサイエンスコースの生徒は)一般選抜での大学進学を想定していない」と言います。総合型選抜での進学や、海外大学への進学*²を想定しているということです。

 この学校の同コース一般入学試験は、Ⅰ型「探究型データリテラシー試験」、Ⅱ型「新思考力試験」です。Ⅰ型は、読解リテラシー、数学・科学的リテラシーを問う筆記試験+面接+書類審査(調査書・活動報告書)、Ⅱ型は、SDGs関連の動画を視聴し、動画に対する課題・解決方法を設定してシートにまとめ、受験生同士で各自のシートを共有し、ディスカッションの結果をまとめ、プレゼンテーション資料を作成して発表+面接+書類審査(調査書・活動報告書)となっており、いわゆる学科試験はありません。旭丘高校とはまったく異なります。

 Ⅰ型・Ⅱ型とも出願要件が、英検準2級相当の資格となっている点が大きな特色です。入学試験全体が、入学後の授業の予告編のような内容になっていると感じました。

*¹:聖徳学園高校は国際バカロレアの認定校ではないので、国際バカロレア修了資格を得ることはできません。イマージョン教育とは、外国語をあくまで手段として、言語以外の教科を学ぶ外国語学習方法のことです。

*²:同校の「ダブルディプロマプログラム」を受講すると、同校とアメリカのロードアイランド州にあるプロビデンス・カントリー・デイスクール(PCD)の両校の卒業資格を得られ、取得後は全米でPCDが提携を結ぶ大学への推薦入学制度を利用できます。海外協定大学推薦制度(UPAA)に加盟しているほか、海外大学への指定校推薦枠もあります。

学校を知ったきっかけは保護者

 聖徳学園高校の10月の説明会では、「データサイエンスコース」1期生が入学後から今までの成果を発表しました。発表テーマも課題に対するアプローチもデータの使い方もさまざまです。旭丘高校でもそうでしたが「やらされている感」がまったく感じられず、自ら設定したテーマに能動的に取り組んでいる姿が印象的でした。

 聖徳学園高校の生徒さんたちに話を聞くと、「答えがないのがすごくよい」「自分で答えを探せて楽しい」「やってみよう、あたってみようという気持ちになった」「中学までは、失敗しちゃいけないという先入観が強くあった。でも、今までできなかったことがこれだけできるようになったと、半年で気づいた」といった返答があり、同コースで意欲的に学んでいることがうかがえました。

 聞けば1期生の全員とも、同コースを知ったきっかけは保護者からだったそうです。まだ、中学生が自らデータサイエンスに興味を抱いて学校選びをしているわけではないとも感じました。

 1期生のある保護者に聞くと「自信やポジティブシンキングを身につけさせたかった」から勧めてみたとのことです。その保護者の子どもは、「中学校のテストでは、〇✕で自分が失敗したところばかり気にしていたが、できるようになったことにも気づけて、失敗したところも、こうしたらもっとうまくいきそうと思えるようになった。次の課題も見えてきて、成長につながっていると思う」と話していました。

データサイエンスを学ぶ上で大切なこと

 先に述べた通り、2022年4月、高校の情報科目が大幅に刷新され、「情報Ⅰ」が必履修になりました。今後すべての高校生がプログラミングやデータ活用を学ぶようになり、IT、情報処理が国民的素養になる時代が訪れます。早期からデジタル時代の「読み書きそろばん」を身につけさせ、伸ばしていく動きが加速しそうです。

 まだ公式に発表されていないため学校名は伏せますが、これまで一般的には文系の学校というイメージだった高校でも、すでにデータサイエンス学科やコース設定に動き出しています。学校独自設定の科目としてデータサイエンスの設置を構想している学校は、枚挙にいとまがありません。

 そして、今回紹介した旭丘高校、聖徳学園高校のように、「データサイエンス」と名の付く学科・コースでも、学び方がまったく異なる学校はもっと出てくるでしょう。ですから、受験生・保護者にとっては、学校の教育目標や教育内容・カリキュラムをよく調べ、自分に合った学校を選ぶ力が今まで以上に必要になってくるでしょう。

 中学校でも探究学習に力を入れている学校ほど、その活動においてデータサイエンスの基礎知識やスキルが必要になってきます。コースや学科を名乗らなくても、「総合的な学習の時間」「技術・家庭」「学校設定科目」でデータサイエンスを扱っている学校もあります。

 保護者が高校生・大学生だったころと時代は変わりました。今やデータサイエンスを学ぶ上で、数学の知識・技能は欠かせません。これからの時代は文系・理系を問わず、(中学までの義務教育段階の算数・数学はもちろんのこと)高校での数学の学習はしっかりやっておいたほうがよいでしょう。

 大学入試は全体的には易化し、科目数を減らすなどの軽量化が進み、選抜機能を失ったような年内入試を実施する大学も少なくありません。「数学」を勉強しなくても入学できる大学は、減ることはないでしょう。

 しかし、学びのゴールを「大学に入学すること」ではなく、「大学入学後に成長して、未来を生き抜く力を身につけること」とするならば、高校での数学はしっかりと学び、大学入学後も「数理・データサイエンス」のプログラムや授業を積極的に履修して自分のモノにしていくことが、VUCAの時代に生き残るために必要なことのように思います。目の前の数学から一刻も早く逃れたいと思う気持ちが強い高校生は、データサイエンスの素養を思うように伸ばせず、AIや他人の指示に従うだけの生活が訪れるかもしれません。

※VUCAの時代:不安定(Volatility)、不確実(Uncertainty)、複雑(Complexity)、曖昧(Ambiguity)な環境が広がり、変化が速く予測困難な現代を表す概念。

聖徳学園高校

※上段はメタバース上に構築したバーチャルな学校(学校案内)にも登場する校長の伊藤正徳先生。

下段は取材にご協力いただいた広報部長の倉田豊子先生(左)、筆者の寺田拓司(中央)、データサイエンス部長のドゥラゴ英理花先生(右)(聖徳学園高校より撮影許諾を得ています)。