急激な市場縮小と法改正を控えていることにより大きく姿を変えつつある人材派遣業界。そのなかにあって、「雇用創出企業」「社会変革企業」を掲げて新規事業に突き進むパソナグループ。一見、“大風呂敷”とも映るパソナの多角化戦略の現場を追った。(「週刊ダイヤモンド」編集部 小出康成)
Photo by Toshiaki Usami
JR東京駅の目と鼻の先にある東京・大手町。10月7日、高層ビルが林立するオフィス街のど真ん中で、季節外れの田植えが行われていた(写真)。
田植えの主催者は人材派遣大手のパソナグループ社。大手町の本社1階に設けた約90平方メートルの水田に、南部靖之・パソナグループ代表やタレントの桂三枝氏が入り、都心での農作業に汗を流した。
水田の上には人工照明が輝き、年中、稲作が可能だ。本社ビルには、レタスやサラダ菜など、野菜を栽培する植物工場も各階に設けられている。収穫されたコメや野菜は社員食堂で社員に供される。
このプロジェクトは「アーバンファーム」と名づけられ、都市農業の魅力を伝えると同時に、ハイテク栽培の技術研修の場としても活用されるという。
同業他社が「あんな地価の高いところで農業をやって採算が合うのか。話題づくりが好きな代表の“道楽”ではないのか」と、やっかむのも無理のないことではある。
だが、パソナグループが注力している農業関連事業はすでにビジネスとして芽吹いている。
パソナグループが初めて農業に参入したのは2003年。「農業インターンプロジェクト」と題して、就農希望の中高年サラリーマンに農家でのインターンシップや農業研修を行ったのが最初だった。その後、農業ビジネススクールや農林漁業ビジネス経営塾などの研修事業もスタート。さらに08年には淡路島に農場を開設するなど、農業関連事業を拡充していった。
結果、これまで農協あるいは自治体が独自で行っていた就農支援事業の受注が可能になった。前期は10自治体から就農支援研修を受注し、5億円の売上高を上げるまでになった。むろん、黒字である。
地域振興策などで自治体の就農支援は増えているが、就農支援を行える民間企業は皆無だから、今後の成長が確実な事業である。