万年赤字会社はなぜ10ヵ月で生まれ変わったのか? 実話をもとにした迫真のストーリー 『黒字化せよ! 出向社長最後の勝負』の出版を記念して、プロローグと第1章を順次公開。4人の課長と話して見えてきた課題。沢井は3つの基本方針を打ち出した。(連載第1回目、第2回目、第3回目、第4回目、第5回目、第6回目、第7回目、第8回目はこちら

赤字の原因はどこに?
――営業課長の言い分

 翌日、朝から蟬の声がうるさいなかを、和田所長が汗を拭き拭き社長室に入ってきた。

 大学法科卒。38歳。
 総務部で人事を担当していたが、3年前の人事措置のとき、営業に回された。
 小太りの何もかも丸い感じで、話してみると心もソフトで丸い。だが、沢井の話が森山、阿部、安川の三人の課長の話に及ぶと、さすがに和田の顔が引きしまった。

「社長、むずかしいことは言いません。常識で考えてください。何で当社だけがむずかしい注文ばかり取ってくるでしょうか。
 それはなかにはむずかしいものもあります。しかしやさしいものもたくさん取っています。他社も同じです。よその会社だって納期遅れやクレームがあります」

「じゃ、当社の赤字の原因はどこにあるというのかね」

「あまり言いたくはありませんが、せっかくのチャンスですから、思い切って言います。
 当社の製造技術の低さと管理の弱さにあります。
 われわれ営業部門はそれをみんな知っていますから、極力作りやすいものを受注するよう努めているつもりです。それでも、正直のところ他社よりクレームや納期遅れが多いのです。

 結局それへの対応でわれわれセールスの精力の多くが浪費されて、新規受注に十分な時間がとれません。悪循環なのです。
 この悪循環から抜け出せないのが、当社が長年赤字である最大の原因です。
 一人ひとりはみんな一所懸命に頑張っているのです」